推定相続人(「仮に現時点である人が死亡した場合、相続人になるはずの人」のことをいいます。)の中に、行方不明者がいる場合、他の推定相続人のために、遺言書を作成しておくべき理由を説明致します。
Aの推定相続人は、長男、二男及び三男の3名だとします。
このうち、三男とは音信不通でどこで暮らしているのかも全く分からない行方不明状態だとします。
Aは不動産や預貯金を持っています。
Aが死亡し相続が開始すると、Aの所有する不動産や預貯金は、法定相続人である長男、二男及び三男が法定相続分(この場合は、各3分の1)に応じて相続することになります。
冒頭、推定相続人の中に行方不明者がいる場合は、遺言書を作成すべきであると申し上げましたが、逆に遺言書を作成しなかった場合、どのようなことになってしまうのか説明したいと思います。
相続手続には、相続人全員の合意が必要
相続が発生すると様々な相続手続きが必要になります。
被相続人名義の不動産があれば、相続登記の手続きが必要になりますし、被相続人名義の預貯金の口座があれば、解約・払戻しの手続きが必要になります。
これらの手続きを行うには、法定相続人全員の協力が必要となります。
もし、相続人の中に協力してくれない者がいれば、相続手続きを進めることができなくなります。
先程の例で、Aが死亡して相続が開始すると、法定相続人(長男、二男、三男)の全員が合意しないと、不動産の名義変更もできませんし、預貯金の払戻しを受けることもできません。
相続人の一人である三男が行方不明で、その協力を得ることができないと、Aの遺産を分配(遺産分割)することができず、遺産共有のまま凍結されてしまうことになります。
では、このような状況の場合、Aの遺産分割をするにはどうすればよいのでしょうか?
まずは、行方不明の三男を探すことになります。
探索の結果、三男が所在が判明すれば、三男含め相続人全員で遺産分割協議を行えばよいのですが、探索してもその所在が分からなかった場合、このままでは、遺産分割協議を行うことができませんので、不在者財産管理人の選任を申立てるか、失踪宣告の申立てを行うかになります。
不在者財産管理人とは、その名のとおり、不在者(行方不明者)の財産を管理する人で、家庭裁判所にその選任を申立てることができます。
長男及び二男は、三男のために選任された不在者財産管理人と遺産分割協議を行うことができますので、不在者財産管理人を選任を申立てることにより、Aの遺産を分配することが可能になります。
ただし、不在者財産管理人は、本来不在者の財産を処分する権限までは有しませんので、遺産分割協議を行うには裁判所の許可を得る必要があります。
失踪宣告とは、不在者の生死が7年間分からない等の場合に、利害関係人の申立てによりその不在者を死亡したものとみなす制度です。
申立てが認められ、三男に失踪宣告がなされると、三男を死亡したものとして相続手続きを行うことができます。
以上のとおり、相続人の中に行方不明者がいる場合、遺産分割協議を行うには、不在者財産管理人の選任申立て又は失踪宣告申立ての裁判手続きが必要となり、他の相続人にとって大きな負担となります。
通常の相続手続きと比べ、非常に大変であることが分かって頂けたかと思います。
推定相続任の中に行方不明者がいる場合、Aが何ら対策を講じることなく死亡してしまうと、自分の相続で長男、二男に大変迷惑を掛けてしまうのです。
このような事態は、Aが遺言を作成することにより回避することができます。
もう少し具体的に言えば、特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言)または特定遺贈をすることで、推定相続人の中に行方不明者がいる場合でも、円滑に遺産承継を行うことが可能になります。
不動産であれば、特定の相続人に対して相続させる旨の遺言又は特定遺贈をすることにより、遺言者の死亡後、その特定相続人は、他の相続人の協力がなくても不動産の名義変更(相続登記)を単独で行うことができます。
預貯金であれば、特定の相続人に対して相続させる旨の遺言又は遺贈することにより、遺言者の死亡後、その特定相続人は、他の相続人の協力がなくても預貯金の解約・払戻しの手続きを単独で行うことができます。
このように、推定相続人の中に行方不明者がいる場合、遺言することにより行方不明者である相続人の関与がなくても遺産承継手続きを行うことができますので、このようなケースでは、遺言書の作成が特に推奨されます。
なお、行方不明者といえども、相続人であることには違いはなく、相続権を有します。
遺言で行方不明者には一切の遺産を承継させなかった場合、その者の遺留分を侵害する場合があります。
現行法では、遺留分を侵害された相続人は、侵害額相当の金銭の支払いを他の相続人に対して請求することができるに留まり、遺言が無効になることはありませんが、行方不明者である相続人が帰来した場合、どうするのかについては検討しておくべきでしょう。
(例えば、行方不明者である相続人に対しても遺留分相当額以上の遺産を相続させる旨の遺言をしておく等)
作成する遺言の形式ですが、手書きの自筆証書遺言の場合(法務局遺言書保管制度を利用しない場合に限る)、遺言を執行するには、家庭裁判所の検認手続きが必要になり、遺言を執行する相続人の負担が重くなってしまいますので、検認手続きが不要な公正証書遺言を残すのがベストです。
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