民間事業者による所有者不明土地管理制度の利活用について

民間事業者による所有者不明土地管理制度の利活用について

 

再生可能エネルギー発電事業者等の民間事業者が、新たな財産管理制度として創設された「所有者不明土地管理制度」を利用して所有者又はその所在が不明な土地を事業用用地として購入すること可能かどうか検討いたします。

所有者不明土地管理制度の概要

裁判所が所有者を知ることができず又はその所在を知ることができない土地(所有者不明土地)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を選任し、当該管理人による管理を命ずる処分をすることができる制度です。

 

所有者不在の財産を管理する制度である「不在者財産管理制度」は、不在者の財産全般を管理する制度であり、ともすればその管理が非効率になりがちであったところ、新たに創設された「所有者不明土地管理制度」は、特定の土地をピンポイントに管理する制度であるため、所有者不明土地を効率的且つ合理的に管理することを可能とする制度になっています。

 

所有者不明土地管理人による売却も可能
所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の管理処分権は、所有者不明土地管理人に専属するとされ、この管理処分権には、対象となる所有者不明土地を処分することがありうるとされ、当該所有者不明土地が将来にわたり適切に管理されうるのであれば、購入希望者へ売却することも可能とされています。

 

所有者不明土地管理制度の場合には,所有者又はその所在が分からないということで土地が管理しにくい状態になっている,そのことに着目を致しまして,管理人を付けて管理ができるようにする。その際に,所有者が代わって,主体が代わることによってきちんと管理ができるようになる場合もあり得るということ,管理人が土地所有権の移転をさせるということも視野に入れた形での管理制度を作ろうということで検討を進めたまいったわけでございます。(部会第15回会議太田幹事の発言)

 

所有者不明土地管理命令申立ての要件

@所有者を知ることができず又はその所在を知ることができない
住民票、戸籍調査等の追跡調査を行っても対象となる土地の所有者又はその所在が分からないことを言います。
また、戸籍により所有者の死亡が判明したときは、戸籍及び住民票による相続人調査が必要になります。

 

A必要性
裁判所が「必要があると認める」ことが所有者不明土地管理命令の申立て要件になります。
対象となる土地の所有者及びその所在が不明であっても、賃借人等の第三者が適切に管理しているのであれば管理人を選任する必要がないので、要件を満たさないことがありえます。

 

B申立権者(利害関係人)
所有者不明土地管理制度を利用するには裁判所に申立てる必要がありますが、申立てには利害関係を有する者でなければなりません。
ここでいう利害関係を有する者とは、一般論としていえば、その土地が適切に管理されないために不利益を被るおそれがある隣接地所有者や、その土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者がこれに当ると考えられるほか、民間の買い受け希望者についても、一律に排除されるものではないとされています。

 

以上を踏まえますと、民間事業者であっても所有者不明土地管理命令の申立てにおける利害関係人になり得るが、単に「購入したい」といったものでは足りず、当該民間事業者が所有者不明土地を取得することにより現状に比しより適切に管理がなされるのであれば、利害関係を有する者として申立てが認められるものと思われます。

 

そのため、購入希望の民間事業者が所有者不明土地管理命令を申立てる場合、具体的な事業計画(対象となる土地の用途、管理方法)、財務の健全性等を疎明する必要があると考えられます

 

最終的には、諸事情を総合的に考慮して裁判所が利害関係の有る無しを判断することになります。

 

所有者不明土地の売却(裁判所の許可が必要)

所有者不明土地管理人が、保存行為又は所有者不明土地の性質を変えない範囲内での利用又は改良行為以外の行為を行うには裁判所の許可を得る必要があります。

 

所有者不明土地管理人が対象となる土地を売却することは権限外の行為となりますので、申立人に売却するには裁判所の許可が必要になります

 

売却の許可がなされるかどうかですが、対象となる土地の適正管理の観点から売却することが相当かどうか、不明所有者の帰来可能性はどうか、不明所有者を害することにならないかどうか、売却代金は相当かどうか等を斟酌して総合的に判断がなされるものと考えられます。

 

まとめ

従来の「在者財産管理制度」を利用するには法律上の利害関係を有することが必要とされ、「不在者の土地を購入したい」というだけでは、原則申立てが認められないとされていたところ、「所有者不明土地管理制度」では、申立ての要件である利害関係を緩く解し、事実上の利害関係がある場合でも申立てが認められるとされており、所有者不明土地の購入希望の民間事業者であっても利害関係を有する場合があり得るとされております。

 

所有者不明土地管理制度は、所有者不明の土地を適切に管理するための制度ですので、所有者不明土地を売却した結果、現状に比し杜撰な管理が行われるのであれば制度趣旨に反することになってしまいます。

 

所有者不明土地を民間事業者が取得するには、現状に比しより適正に管理しうるだけの事業の継続性、管理能力、資力等が求められることになります。