不動産を民事信託したときに

不動産を民事信託したときの課税関係

民事信託を行うには、税金関係を理解しておくことが重要になります。
ここでは、信託設定時、信託期間中及び信託終了時の課税関係について説明します。

 

不動産を信託した場合の信託設定時の課税関係

自益信託を設定した場合の課税関係
父親(委託者)が所有する賃貸アパートを長男(受託者)に受益者を父親とする民事信託をした場合の税金関係について考えてみます。

 

委託者と受益者が同一の信託のことを「自益信託」といいます。

 

委託者自身が、信託財産から利益を受ける信託のことであり、委託者である父親が自身を受益者として長男に賃貸アパートを信託するのは、自益信託にあたります。

 

民事信託により形式的には、賃貸アパート(信託財産)の所有権は父親(委託者)から長男(受託者)に移転しますが、信託があった場合、税法上は、実際に、受益者に信託財産の所有権があるものとして取り扱います。

 

これは、実際、信託財産から経済的な利益を受けるのは、形式的な所有者である受託者ではなく、実質的な所有者である受益者であるため、税法上は信託財産は受益者に移転したものとして課税することになります。

 

税法上、委託者から受益者へ信託財産が移転したものとして取り扱いますが、自益信託の場合、委託者と受益者が同一人であるため、同一人間での信託財産の移転はなかったものとして取り扱われますので、自益信託の場合、課税関係は生じないことになります。

 

他益信託を設定した場合の課税関係
次に、父親(委託者)が所有する賃貸アパートを長男(受託者)に、受益者を孫とする民事信託をした場合の税金関係について考えてみます。

 

委託者と受益者が異なる信託のことを「他益信託」といいます。

 

委託者以外の他の者が、信託財産から利益を受ける信託のことであり、委託者である父親が、孫を受益者として長男に賃貸アパートを信託するのは、他益信託にあたります。

 

信託があった場合、税法上は、委託者から受益者へ信託財産が移転したものして取り扱いますので、他益信託があった場合、受益者から委託者へ適正な対価の支払いがない場合は、受益者への贈与があったものとして、受益者に対して贈与税が課税されることになります。

 

父親が賃貸アパートを受託者長男、受益者孫とする民事信託をした場合、税法上は、賃貸アパートを孫に贈与しものとして孫に贈与税が課税されることになります。

 

不動産を信託したときの不動産流通税(登録免許税・不動産取得税)

登録免許税
不動産を信託したときは、委託者から受託者への「所有権移転登記」と「信託の登記」の申請が必要になります。

 

受託者への所有権移転登記の登録免許税は、非課税になります。
(受託者は形式的な所有者であり、実質、信託に係る不動産の所有権を取得していないので、、受託者への所有権移転登記には登録免許税は課税されないことになります。)
信託の登記の登録免許税は、不動産の固定資産税評価額の0.4%になります。
なお、土地の所有権の信託の登記の登録免許税は、固定資産税評価額の0.3%になります。(令和8年3月31日まで)

 

不動産取得税
委託者から受託者へ信託財産を移す場合における不動産の取得については、不動産取得税は非課税となります。

 

不動産を信託した場合と贈与した場合の不動産流通税の比較

登録免許税 不動産取得税

信託
(信託の登記)

土地 0.3% 非課税
建物 0.4%

贈与
(所有権移転登記)

土地 2%

3%(宅地等)
4%(宅地等以外)

建物

3%(住宅)
4%(住宅以外)

 

信託期間中の課税関係

民事信託は、受益者等課税信託
民事信託を設定した場合、原則、所得税は、受益者(個人の場合)に課せられます。

 

民事信託(家族信託)では、原則、受益者等課税信託になります。

 

信託によって、実質的な経済的利益を受けるのは受益者であるため、その受益者に対して課税することになります。

 

信託がなされると、受益者が信託財産を保有しているものとして取り扱われますので、信託財産から収益が発生する場合、当該所得について、受益者は確定申告を行う必要があります。

 

なお、信託に係る不動産所得に損失が発生した場合、損益通算ができないデメリットがあります。

 

信託に係る不動産所得から損失が発生した場合であっても、その損失はなかったものとみなされますので、受益者が個人で保有する不動産所得があっても、その所得から信託に係る不動産所得の損失を控除することができないことになります。

 

また、信託に係る不動産所得に損失が発生した場合であっても、その損失を翌年に繰り越すこともできません。

 

信託終了時の課税関係

贈与税・相続税
信託終了に伴い、残余財産を受ける者(帰属権利者等)と信託終了直前の受益者とが同一であれば、課税関係は生じません。

 

帰属権利者と信託終了直前の受益者が異なる場合、その受益者から帰属権利者への信託財産の移転があったものとみなして、贈与税又は相続税が課税されます。(適正な対価の支払いがなく、かつ、受益者及び帰属権利者がいずれも個人の場合)

 

登録免許税・不動産取得税
信託財産が不動産の場合、信託終了に伴い、帰属権利者等が信託不動産を取得した場合、受託者からの所有権移転登記の申請が必要になります。その際、登録免許税を納付する必要があります。

 

また、信託不動産の取得したことにより、不動産取得税が課税されることがあります。

 

委託者兼受益者の自益信託であり、信託終了時に当初委託者が信託財産を取得する場合は、登録免許税及び不動産取得税は、非課税となります。

 

委託者兼受益者の自益信託であり、信託期間中、受益者の変更がなく、信託終了時に委託者の相続人が信託財産を取得した場合、その所有権移転登記は、相続の登録免許税率が適用されるので、信託終了に伴う受託者から委託者の相続人への所有権移転登記の登録免許税率は0.4%になります。
この場合、相続により不動産を取得した場合と同様、不動産取得税は非課税となります。

 

上記以外で信託終了に伴い信託不動産を取得した場合の所有権移転登記の登録免許税率は2%です。
また、不動産取得税が課税されます。
原則、固定資産税評価額の4%(住宅又は宅地等は3%)