敷金返還請求権を担保するための抵当権設定登記

高額な敷金を差し入れている場合、賃貸借契約終了後の敷金返還債務の履行を確保するために、賃借物件に抵当権を設定することがあります。

 

建物登記簿
【権利部乙区】

順位番号 登 記 の 目 的 受付年月日・受付番号 権 利 者 そ の 他 の 事 項
1 抵当権設定

令和2年○月○日
第○○○○号

原因 令和2年○月○日賃貸借契約の敷金返還債権の令和2年○月○日設定
債権額 金○○○円
利息 無利息
損害金 年○%
債務者 ○○市○○町○丁目○番地
 甲株式会社
抵当権者 ○○市○○町○丁目○番地
 乙株式会社

 

【権利部甲区】

順位番号 登 記 の 目 的 受付年月日・受付番号 権 利 者 そ の 他 の 事 項
1 所有権移転

平成10年○月○日
第○○○○号

原因 平成10年○月○日売買
所有者 ○○市○○町○丁目○番地
 甲株式会社

上記登記簿は、甲株式会社(賃貸人)と乙株式会社(賃借人)との建物賃貸借契約に伴い、乙株式会社が甲株式会社に差し入れた敷金の返還債務の履行確保のため、賃借物件に抵当権を設定したものです。

 

根拠先例
賃貸借契約に定める保証金返還請求権を担保するための抵当権は、普通抵当権によるべきである。この場合の登記原因の記載は、「昭和○年○月○日賃貸借契約の保証金返還債権の昭和○年○月○日設定」とするのが相当である。(法務省民三第5414号民事局第三課長回答)

上記先例は、保証金返還請求権を担保するための抵当権に関するものですが、敷金返還請求権を担保するための抵当権にも妥当するものと考えられます。

 

 

敷金と敷金返還請求権

新民法で敷金に関する規定が新設
新民法(平成29年法律第44号(令和2年4月1日施行))前の旧民法では、敷金に関する規定がなく、敷金の定義、法的性質等については、判例の積み重ねにより形成されてきました。

 

新民法により、敷金に関する規定が新設(新民法622条の2)され、敷金の定義、賃貸人の返還義務、敷金返還請求権の発生時期、敷金の充当関係等が明確になりました。

 

新民法により新設された敷金規定は、従来の判例法理を明確化したもので、これまでの敷金の法的性質等を実質的に変更するものではないとされています。

 

敷金の定義(新民法622条の2T)
敷金とは、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義されました。

 

いかなる名目によるかを問わないとされましたので、保証金等の名目で賃借人が賃貸人に金銭を交付した場合であっても、それが、賃料債務等を担保する目的でなされたものと判断されれば、新民法で定める敷金に該当することになります。

 

敷金の返還義務及び時期(新民法622条の2T)
新民法では、賃貸人に対して交付を受けた敷金の返還義務とその時期を規定しています。

 

「賃貸人は、賃借人に対して、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。」と規定され、賃貸の返還義務及び返還額が明確になりました。

 

敷金の返還時期について、@賃貸借契約が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、A賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき、と規定されました。
@については、賃貸人の敷金返還債務と賃借人の目的物明渡債務は同時履行の関係ではないとする、従来の最高裁判所の判断を明文化したものとされています。

 

敷金の充当(新民法622条の2U)
敷金の充当について、「賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。(新民法622条の2U)」と規定されました。

 

賃借人が賃料の支払いを怠った場合、賃貸人が敷金をその支払いに充当することができるが、賃借人側からその不払いを敷金で充当することを請求することができないことを明確にしました。

 

 

賃貸人の変更に伴う敷金返還債務の移転

賃貸人甲株式会社が所有する賃貸物件を丙株式会社に譲渡した場合の敷金の権利義務関係はどうなるのか

 

従来の判例法理
建物賃貸借契約において、該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があつた場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される。(最判昭44・7・17)

上記判例法理が新民法により明確化されました。

 

新民法
賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。(605条の2@)

 

賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、・・敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。(605条の2C)

 

賃借人乙株式会社が賃貸借の対抗要件(建物の引渡(借地借家法31条)又は、建物賃借権の登記(民法605条))を備えていれば、甲株式会社から丙株式会社への賃貸物件の譲渡により、当該賃貸物件の賃貸人たる地位は、譲受会社である丙株式会社に移転します。

 

賃貸人たる地位の移転に伴い、旧賃貸人である甲株式会社に差し入れられた敷金の権利関係は、新賃貸人である丙株式会社に承継されます。

 

当該賃貸借契約終了後に、敷金から賃料債務等の金額を控除し残額がある場合、新賃貸人である丙株式会社は賃借人乙株式会社に対して敷金返還義務を負うことになります。

 

 

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