株式会社が外部から資金調達する方法として、金融機関からの借り入れの他に、募集株式(新株)を発行する方法があります。
募集株式の発行による増資は、会社の自己資本を強化し、財務状況の健全化をもたらしますが、株主の持ち株比率に変動が生じる場合には、既存株主との調整が必要になることもあります。
募集株式の発行により、登記事項である発行済株式総数及び資本金の額に変更が生じますので、変更登記が必要になります。
募集株式の発行方法には、株主割当による方法と、第三者割当による方法があります。
@株主割当による方法
その所有する株式数に応じて、既存株主に募集株式の割当を受ける権利を与えて行う株式発行
A第三者割当による方法
株主割当以外の方法により、募集株式を割り当てる株式発行
例えば、株主構成が、株主A50株、株主B30株、株主C20株の会社において、株式を100株発行する場合において、Aに50株、Bに30株、Cに20株を割当を受ける権利を与えて株式を発行する方法が株主割当による株式発行です。
既存株主は、株式発行にあたり、引き受けの申込みを行うことにより、持ち株比率を維持することができます。
既存株主でないDに発行する株式100株を引受けてもらうのが、第三者割当による株式の発行です。
また、既存株主Aに100株、既存株主Aに50株及びBに50株のように、既存株主に割り当てる場合でも、その持ち株比率に応じて割り当てない場合は、株主割当ではなく、第三者割当による株式発行になります。
株式を発行するには、募集事項を決定する必要があります。
募集事項の決定は、公開会社の場合は取締役会(有利発行は株主総会の特別決議)により、非公開会社は株主総会の特別決議により決定します。
募集事項
(1)募集株式の数(種類株式にあっては、その種類及び数)
(2)現物出資の旨及び現物出資財産の内容及び価額
(3)募集株式の払込金額又はその算定方法
(4)払込期日または払込期間
(5)新株を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
株主割当の場合は、上記の他に次の事項も決議する必要があります。
(1)株主に対して募集株式の割当を受ける権利を与える旨
(2)募集株式の引き受けの申込期日
第三者割当 | 株主割当 | |
非公開会社 |
株主総会 |
株主総会 |
公開会社 |
取締役会 |
取締役会 |
株式を発行することにより、発行可能株式総数を超えてしまう場合は、発行可能株式総数を変更する必要があります。
非公開会社は発行可能株式総数の上限はありませんが、公開会社の場合は、発行済株式総数の4倍を超えることができません。
発行可能株式総数は、定款の記載事項ですので、株主総会の特別決議により定款を変更する必要があります。
また、発行可能株式総数は登記事項でもありますので、発行可能株式総数を増加させたときは、発行可能株式総数の変更登記の申請も必要になります。
株式の引き受けの申込みをしようとする者に、募集事項及び株式に関する事項を通知しなければなりません。
株主割当の場合は、申込期日の2週間前までに次の事項を株主に対して通知しなければなりません。
・募集事項
・当該株主が割当を受ける募集株式の数
・申込期日
株式の引き受けの申込みをしようとする者は、株式引受の申込みを書面により行います。
株主割当の場合、株主は、申込期日までに引き受けの申込をしないと募集株式を引受ける権利を失います。
募集株式の割当を受ける者及び割り当てる募集株式の数を決定します。
募集株式の総数引き受け契約による場合、株主割当による場合はこの割当決議は不要です。
(1)割当決議機関
募集株式が譲渡制限株式である場合、その割当は株主総会の特別決議により行います。(取締役会設置会社の場合は取締役会)
(2)条件付割当決議
取締役会非設置会社は、募集決議の段階で、申込者が決まっている場合、その申込み者による申込みがあったことを条件として当該申込み者に対して株式を割り当てるとの条件付決議を募集事項の決議と同時に株主総会で行うことができます。
割り当てる株式が譲渡制限株式でなければ、代表取締役等の業務執行機関が割当を決定することができます。
会社は、払込期日の前日(払込期間を定めた場合は、期間の初日の前日)までに株式引受人に割当に関する事項を通知する必要があります。
募集株式の引受人は、申込期日又は申込期間内に、会社が定める銀行等の払込み取扱機関において払込金の全額を払い込みます。
現物出資の場合
募集事項で現物出資の事項を定めたときは募集事項の決定後遅滞なく、現物出資財産の価額を調査させるため、裁判所に検査役の選任を申立てる必要があります。
次の場合、検査役の調査は不要になります。
@株式引受人に割り当てる株式の総数が、発行済株式の総数の10分の1を超えない場合
A現物出資財産の価額の総額が500万円を超えない場合
B市場価格のある有価証券について定められた現物出資財産の価額が、募集事項決定日における取引市場の最終価格と公開買い付け等に係る契約上の価格のいずれか高い額を超えない場合
C現物出資財産について定められた価額が相当であることについて弁護士、税理士、公認会計士等の証明(現物出資財産が不動産の場合は、不動産鑑定士の鑑定評価も必要)を受けた場合
D現物出資財産が弁済期が到来している株式会社に対する金銭債権であって、当該金銭債権について定められた価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合
総数引受契約により募集株式を引受ける場合は、引き受け申込から割当決議までのプロセスを省略することができます。
(1)総数引受契約の締結
総数引受契約は、引受人が1人である必要はなく、複数の引受人との間で総数引受契約を締結することも可能ですが、この場合は、実質的に同一機会に一体的な契約で募集株式の総数の引受けがおこなわれたものと評価しうるものであることが必要であるとされています。
(2)総数引受契約書の作成について
引受人が複数の場合、発行会社と複数の引受人間で契約を締結し1通の契約書を作成する方法以外に、引受人と個別に契約を締結し、引受人の数だけの契約書を作成することも可能とされています。
募集株式の発行に係る変更登記申請の添付書類として、次の要件を満たす契約書が複数添付されている場合は、総数引受契約を証す書面として評価することができるとされています。
@各契約書にそれぞれ引受人が発行会社との間で引受契約を締結する旨の記載がある
A各契約書に他の引受人とともにその総数を引き受けるとの記載がある
@及びAの要件を満たす場合、各契約書には当該契約者以外の引受人の氏名及びその引受け株式数の記載がなくても当該各契約書をもって総数引受契約を証する書面として評価することができる。
登記情報554号 商業登記実務Q&A(4)Q19
(3)総数引受契約の承認
募集株式が譲渡制限株式であるときは、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって、総数引き受け契約の承認を受けなければなりません。
承認機関は取締役会を置く株式会社は取締役会、取締役会を置かない株式会社は株主総会です。
ただし、承認機関について定款で別段の定めをすることができますので、取締役会設置会社が定款で承認機関を株主総会と定めたときは、株主総会で承認することが可能になります。
1 登記申請期間
募集株式の発行により株式を発行したときは、申込期日(申込期間を定めたときは申込期間の末日)から2週間以内に、本店の所在地において募集株式の発行による変更登記を申請しなければなりません。
2 登記すべき事項
発行済株式総数、資本金の額及び変更年月日です。
3 添付書類
@募集事項の決定を証する書面
公開会社 | 非公開会社 | |
第三者割当 |
・取締役会議事録
・株主総会議事録 |
・株主総会議事録
・株主総会議事録+取締役会議事録
・株主総会議事録+取締役決定書 |
株主割当 | ・取締役会議事録 |
・株主総会議事録
・定款+取締役会議事録
・定款+取締役決定書 |
A株主リスト
⇒株主総会議事録を添付する場合に必要
B募集株式の引受けの申込みを証する書面
(株式申込証)
C総数引受契約書
⇒総数引受契約により株式を引受けた場合
D引き受けに係る株式が譲渡制限株式の場合は承認があったことを証する書面
公開会社⇒取締役会議事録
非公開会社⇒株主総会議事録(取締役会非設置会社)、取締役会議事録(取締役会設置会社)
E割当の決議があったことを証する書面
⇒取締役会を置く非公開会社は、取締役会議事録
⇒取締役会を置かない非公開会社は、株主総会議事録
⇒公開会社が譲渡制限株式を発行したときは取締役会議事録
F払込みがあったことを証する書面
G資本金の額の計上に関する証明書
4 登録免許税
申請一件につき増加した資本金の額の1,000分の7
(これによって、計算した税額が3万円に満たないときは、3万円)
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