完全子会社を吸収合併する親子間合併の手続き

ここでは、完全親会社(甲株式会社)が100%出資の完全子会社(乙株式会社)を吸収合併する場合の合併手続きについて解説致します。

 

完全親会社が100%出資の完全子会社を合併する完全親子間の吸収合併の特徴

・完全子会社の株主は完全親会社のみであり、完全親会社は合併対価(自社の株式)を交付できない。
(会社法では、合併存続会社が自社に対して合併対価を交付することを認めていません。)

 

・合併対価として株式を交付できないので、合併により完全親会社の株主資本(資本金・資本剰余金)は変動しない。

 

・会計処理は特別損益を計上することにより行う。
 子会社の純資産額>子会社株式の帳簿額⇒特別利益を計上
 子会社の純資産額<子会社株式の帳簿額⇒特別損失を計上

 

 

 

合併契約の締結(合併契約書の作成)

会社が合併するには、合併の当事会社が、合併契約を締結する必要があります。
吸収合併存続会社と吸収合併存続会社の代表取締役が吸収合併契約を締結します。
合併契約書が、吸収合併による変更登記の添付書類となるため、合併契約書を作成します。
合併契約書の印紙税額は4万円になります。

 

完全親会社甲株式会社が、完全子会社乙株式会社を吸収合併する場合の合併契約書の記載例
です。

合併契約書

 

甲株式会社(以下「甲」という。)と乙株式会社(以下「乙」という。)とは、次のとおり合併契約(以下「本契約」という。)を締結する。

 

第1条  甲と乙は、甲を吸収合併存続会社、乙を吸収合併消滅会社として吸収合併(以下「本合併」という。)を行う。
2 本合併に係る吸収合併存続会社及び吸収合併消滅会社の商号及び住所は、以下のとおりである。
甲:吸収合併存続会社
  商号  甲株式会社
  住所  ○県○市○町○番○号
乙:吸収合併消滅会社
  商号  乙株式会社
  住所  ○県○市○町○番○号

 

第2条  本合併の効力発生日は令和○年○月○日とする。ただし、前日までに合併に必要な手続が遂行できないときは、甲及び乙が、協議の上、会社法の規定に従い、これを変更することができる。

 

第3条  甲は、乙の発行済株式の全部を所有しているため、本合併に際して、甲から乙の株主に対する乙の株式に代わる対価の交付を行わない。

 

第4条  本合併により、甲の資本金及び資本準備金は増加しない。

 

第5条 甲は、令和○年○月○日に、株主総会を開催し、本契約に関して株主総会の承認決議を求めるものとする。ただし、合併手続の進行上その他必要があるときは、甲乙協議のうえ、この期日を変更することができる。
2 乙は、会社法第784条第1項の規定により、本契約に関して株主総会の承認を得ることなく甲と合併する。

 

第6条 甲は効力発生日において、乙の資産及び負債その他一切の権利義務を承継する。

 

第7条  甲及び乙は、本契約締結後、効力発生日前日に至るまで、善良なる管理者の注意をもって各業務を遂行し、かつ、一切の財産の管理を行う。

 

第8条  甲は、効力発生日において、乙の従業員を甲の従業員として雇用する。
2 勤続年数は、乙の計算方式による年数を通算するものとし、その他の細目については甲及び乙が協議して決定する。

 

第9条  この契約締結の日から効力発生日までの間において、天災地変その他の理由により、甲若しくは乙の資産状態又は経営状態に重大な変更が生じた場合又は隠れたる重大な瑕疵が発見された場合には、甲及び乙が協議の上、本契約を変更し又は解除することができる。

 

第10条  本契約に規定のない事項又は本契約書の解釈に疑義が生じた事項については、甲及び乙が誠意をもって協議のうえ解決する。

 

第11条  本契約は関係官庁の認可を受けることができない場合又は甲乙各々の株主総会の承認を得ることができない場合には、その効力を失うものとする。

 

本契約の締結を証するため本書2通を作成し、甲乙各1通を保有する。

 

令和○年○月○日

 

甲: ○県○市○町○番○号
   甲株式会社
   代表取締役 ○○○○

 

乙:○県○市○町○番○号
   乙株式会社
   代表取締役 ○○○○

 

事前開示の手続

会社が吸収合併する場合、吸収合併等の内容その他会社法施行規則で定める事項を記載した書面を本店に備え置く必要があります。
備置期間
完全親会社 備置開始日から合併の効力発生日後6ヶ月を経過するまでの間
完全子会社 備置開始日から合併の効力発生日までの間
事前開示事項を会社法施行規則第191条で定められています。

 

吸収合併の承認

合併当事会社は、合併の効力発生日の前日までに株主総会の特別決議により合併契約の承認を受けなければなりません。
なお、完全親会社が完全子会社を吸収合併する親子間合併の場合、株主総会の承認決議を省略する簡易合併・略式合併によることが一般的です。

 

簡易合併

簡易合併とは、吸収合併消滅会社の株主に対して交付する株式等の価額の合計額が吸収合併存続株式会社の純資産額の5分の1を超えない合併で、吸収合併存続会社においては、合併契約の承認は株主総会でなく取締役会(取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数の決定)の決議で行うことができます。

 

ただし、合併対価が純資産額の5分の1を超えない場合であっても、次の場合は、簡易合併は認められません。(原則通り、株主総会の特別決議により合併契約の承認を受けなければなりません。)
1 合併対価として吸収合併存続会社の譲渡制限株式を交付する場合であって、吸収合併存続会社が公開会社でないとき
2 吸収合併存続会社の承継債務額が承継債務額を超える場合、または、合併対価の帳簿価額が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超える場合
3 会社法施行規則197条の規定により定まる数の株式を有する株主が合併に反対する旨を吸収合併存続会社に対し通知したとき

 

完全親会社が完全子会社を吸収合併する親子間合併の場合、会社法第749条第1項第3号カッコ書により、完全親会社は、合併対価を交付することがでず、必然的に無対価合併となりますので、完全子会社が債務超過等でなければ簡易合併が認められます。

 

 

会社法では、吸収合併存続会社が自社に対して合併対価を交付することを禁止しています。
完全親会社は、完全子会社の株主ですので、完全親会社が合併対価を交付するということは、自社に対して合併対価を交付することになってしまいますので、完全親会社が完全子会社を吸収合併する親子間合併では、合併対価を交付することができないことになります。

 

中小の同族会社にとって簡易合併はあまりメリットがない。

株主総会の承認決議を省略することができる簡易合併は、容易に株主総会を開催することができない上場会社にとっては非常にメリットがありますが、容易に株主総会を開催できる中小同族会社にはあまりメリットがありません。

 

実際に、完全子会社が債務超過であるかどうか微妙なケースでは、安全策として簡易合併でなく、あえて株主総会の承認決議を経る通常合併により行われています。

 

会社法では、簡易合併の要件を満たす場合、株主総会の承認決議を要する旨の規定は適用しないと規定されていることから、簡易合併の要件を満たす場合、株主総会の承認決議は無効との見解もあるそうですが、簡易合併の要件を満たす場合であっても通常どおりの手続き(株主総会の特別決議によって合併契約の承認を受けること)によることも可能とする見解が有力であり、簡易合併の要件を満たす場合であっても、実務上、株主総会を開催するケースが見られるとのことです。

 

商業登記実務のための会社法Q&A(18)登記情報558号
Q5
取締役会設置会社である存続会社は、当該吸収合併の効力発生日の直前の時点において簡易合併の要件が満たされることが見込まれる場合であっても、株主総会の決議により吸収合併契約の承認を受けることができるか。

存続会社が株主総会の決議により吸収合併契約の承認を受けようとする場合において、当該決議の時点で簡易合併の要件が満たされているときであっても、存続会社は、当該決議を行うことができ、また、当該吸収合併の効力発生日の直前の時点において簡易合併の要件が満たされていた場合であっても、いったんされた当該決議の効力が覆ることはないものと考える。
簡易合併の場合、登記の添付書面として「簡易合併の要件を満たすことを証する書面」の作成が必要になります。
このような書面を作成するのであれば、通常どおり株主総会を開催して、合併契約の承認決議に係る株主総会議事録を作成した方が簡便だと思われます。

 

略式合併

吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の特別支配会社である場合は、吸収合併消滅会社は、株主総会の承認を得ることなく合併することができます。(略式合併)
ただし、合併対価として吸収合併存続会社の譲渡制限株式を交付する場合であって、吸収合併存続会社が公開会社でない場合は、株主総会の承認決議を得る必要があります。
特別支配会社とは
(吸収合併消滅会社の総株主の議決権の90%以上を吸収合併消滅会社等が保有している場合)

 

完全親子間の吸収合併の場合、吸収合併存続会社である親会社は、吸収合併消滅会社である子会社の特別支配会社に該当し、合併対価の交付もないため、吸収合併消滅会社である子会社は、株主総会の承認を得ることなく、親会社と合併することができます。

 

 

債権者保護手続(合併公告)

合併当事会社は、会社債権者に対して一ヶ月を下らない一定期間内(異議申述期間)に、次に掲げる事項を官報により公告し、かつ、知れている債権者に対しては各別の催告をしなければなりません。
ただし、定款で定めた公告方法が日刊新聞紙の掲載する方法または電子公告による方法である場合は、その公告方法による公告を行えば、知れている債権者への各別の催告を省略することができます。

公告・催告事項
・吸収合併をする旨
・存続会社および消滅会社の商号及び住所
・吸収合併存続会社及び吸収合併消滅会社の計算書類に関する事項
・債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

合併公告の官報申込から官報に掲載まで最短で10日程度の日数を要します。
ただし、最終の決算公告を行っていない場合で、最終の貸借対照表の要旨の内容と併せて合併公告をする場合(同時公告)は、官報申込から官報に掲載まで3週間程度の日数を要します。

 

株券提出手続

吸収合併消滅会社が株券発行会社の場合、株券提出公告を行う必要があります。

 

効力発生日までに株券を提出しなければならない旨を当該日の1ヶ月前までに公告し、かつ、株主および登録株式質権者に各別に通知しなければなりません。

 

ただし、株式の全部について株券を発行していない場合は、株券提供公告は不要です。
完全子会社が株券発行会社のケースは少ないと思われますが、株券発行会社の場合であっても、株主は完全親会社のみですので、株券不所持の申出をすることにより、株券提供公告を省略することが可能です。

 

吸収合併存続会社の資本金の額

吸収合併存続会社の資本金の額は、合併対価として吸収合併存続会社の株式を交付した場合に限り、増加させることができます。

 

会社法では、吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の株主の場合、吸収合併存続会社は、自社に対して合併対価を交付できないとしています。

 

完全親子間の吸収合併の場合、完全親会社のみが完全子会社の株主のため、完全親会社は、合併対価として完全親会社の株式を交付できないため、完全親会社の資本金の額は増加しません。

 

会計処理
子会社から受け入れた純資産のうち親会社持分に相当する部分と、親会社が保有していた子会社株式の帳簿価額の差額を特別損益として計上します。

 

事後開示の手続

吸収合併存続会社は、合併の効力発生日以後、遅滞なく、事後開示書面を作成し、6か月間本店に備え置く必要があります。

 

合併の登記手続

効力発生日から2週間以内に吸収合併存続会社については、吸収合併による変更登記を、吸収合併消滅会社については、吸収合併による解散の登記を、同時に申請しなければなりません。
なお、吸収合併存続会社と吸収合併消滅会社の管轄登記所が異なる場合は、吸収合併消滅会社の解散の登記の申請は、吸収合併存続会社の管轄登記所を経由して申請しなければなりません。

 

完全親会社が完全子会社を吸収合併する場合の登記手続の添付書面

・合併契約書

 

吸収合併存続会社(親会社)が合併につき株主総会の決議により承認を得た場合(通常合併)
・株主総会議事録及び株主リスト

 

吸収合併存続会社(親会社)が合併につき取締役会の決議により承認を得た場合(簡易合併)
・取締役会議事録
・取締役の過半数の一致があったことを証する書面(取締役会非設置会社の場合)
・簡易合併の要件を満たすことを証する書面

 

吸収合併消滅会社(子会社)が合併につき取締役会の決議により承認を得た場合(略式合併)
・取締役会議事録
・取締役の過半数の一致があったことを証する書面(取締役会非設置会社の場合)
・略式合併の要件を満たすことを証する書面(株主名簿等)

 

・公告および催告をしたことを証する書面
 官報掲載紙、催告書の写し等

 

資本金の額の計上に関する書面及び登録免許税法施行規則第12条第5項の規定に関する書面は不要
これらは、資本金の額が増加する場合に添付しなければならない書類で、資本金の額が増加しない完全親子間の吸収合併による登記の場合は、添付不要です。

 

 

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