旧根抵当権の登記

登記実務に携わっていても、最近ではあまり見ることのない「旧根抵当権」の登記を取り扱ったので、備忘録も兼ねて旧根抵当権について記事にすることにしました。

 

旧根抵当権とは

根抵当権に関する法律がないにもかかわらず、古くから取引界においては判例や慣習に基づき、継続的取引から生ずる債務を一定の限度額(極度額)までを担保すると決めて設定する根抵当取引が行われてきた。

 

しかしながら法律がないことによる様々な問題も発生し、根抵当権に関する法整備が求められるようになる。

 

民法の一部を改正する法律(昭和46年法律第99号)が制定され根抵当権に関する規定が民法及び不動産登記法に新設された。

 

この改正法が施行された昭和47年4月1日より前に設定された根抵当権を旧根抵当権と呼んでいる。

 

旧根抵当権の特徴

根抵当権設定契約を締結する前提として基本的債権契約(基本契約)を締結する必要がある。
商取引及びこれに附帯関連して生ずる一切の債務を担保する旨の包括根抵当権なるものは認められない。
基本契約の記載を欠く登記申請は受理されない。
(昭和30年12月17日民事甲第2716号民事局長電報回答)

 

極度額の定め
旧根抵当権では、極度額の定めとして元本極度額と債権極度額の2種類の定め方があった。
債権極度額を定めた場合、現行の根抵当権の極度額の定めと同じで、極度額を上限として元本、利息及び損害金の合計額につき優先弁済を受けることができるのに対し、元本極度額を定めた場合、最後の2年分の利息・損害金については元本との合計額が極度額を超える場合であっても優先弁済を受けることができた。

 

共同根抵当権
旧根抵当権については、基本契約が同一である根抵当権が数個の不動産の上に設定された場合、当該根抵当権は当然共同根抵当権になる。

 

 

新法施行後の旧根抵当権の取扱い

新法(民法の一部を改正する法律(昭和46年法律第99号))施行前に設定された根抵当権を旧根抵当権という。
新法は、旧根抵当権についても適用され、新法施行前に既に生じていた事項についての効力も認められる。
例えば新法では認められない元本極度額の定めについても、新法施行前に定めたのであれば新法施行後においてもその効力は認められ、元本極度額の定めを新法施行後であっても登記することも可能(従前の例による)とされている。

 

新法の規定が適用されない旧根抵当権

元本極度額を定める旧根抵当権又は主登記による極度額増額の登記がなされている旧根抵当権については、新法のうち以下の規定は適用されない。
@極度額の変更
A担保すべき債権の範囲の変更
B債務者の変更
C根抵当権の全部譲渡
D根抵当権の分割譲渡
E根抵当権の一部譲渡
F共有根抵当権の弁済についての優先の定め

 

 

元本極度額を定める旧根抵当権又は主登記による極度額増額の登記がなされている旧根抵当権について、上記@からFまでの新法の規定を適用するには、

 

元本極度額を定める旧根抵当権
⇒元本確定前に元本極度額の定めを変更する。
 極度額の定めの変更登記を申請する。

 

主登記による極度額増額の登記がなされている旧根抵当権
⇒元本確定前に当該増額部分を分割してこれを独立の根抵当権とする。
 主登記による極度額増額部分の分割登記を申請する。

 

極度額の定めの変更登記・主登記による極度額増額部分の分割登記

【乙区】

1番

根抵当権設定

原因 昭和何年何月何日銀行取引契約の同日設定契約

元本極度額 金1,000万円

利息 年何%

損害金 年何%

債務者 (住所省略)甲株式会社

根抵当権者 (住所省略) 株式会社A銀行

2番 省略
3番

1番根抵当権変更 

原因 昭和何年何月何日変更

元本極度額 金1,500万円

上記根抵当権は、元本極度額の定め及び主登記による極度額増額による変更がなされている新法に適合しない根抵当権である。
このままでは、この根抵当権の極度額、担保すべき債権の範囲、債務者の変更等を行うことができない。
これらを行うには、元本確定前に、極度額の定めの変更登記及び主登記による極度額増額部分の分割の登記を行う必要がある。

 

登記申請
@極度額の定めの変更登記
登記の目的 3番増額部分根抵当権設定(1番根抵当権)
登記原因 令和何年何月何日分割
極度額 金500万円
債権の範囲 昭和何年何月何日銀行取引契約
債務者 甲株式会社
根抵当権者 株式会社A銀行
設定者 甲株式会社

 

A主登記による極度額増額部分の分割登記
登記の目的 1番根抵当権変更

 

原因 令和何年何月何日変更
変更後の事項 
極度額金1,500円(元本極度額金1,500円)
債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
登記権利者 株式会社A銀行
登記義務者 甲株式会社

 

 

【乙区】登記完了後

1番

根抵当権設定

原因 昭和何年何月何日銀行取引契約の同日設定契約

元本極度額 金1,000万円

利息 年何%

損害金 年何%

債務者 (住所省略)甲株式会社

根抵当権者 (住所省略) 株式会社A銀行

付記1号

1番根抵当権変更

元本極度額 金1,000万円

3番増額部分根抵当権設定により令和何年何月何日付記

付記2号

1番根抵当権変更

原因 令和何年何月何日変更

極度額 金1,000万円

2番 省略
3番

1番根抵当権変更 

原因 昭和何年何月何日変更

元本極度額 金1,500万円

付記1号

3番増額部分根抵当権設定(1番根抵当権)

原因 令和何年何月何日分割

極度額 金500万円

 債権の範囲 昭和何年何月何日銀行取引契約

債務者 甲株式会社

根抵当権者 株式会社A銀行

 

担保すべき債権の範囲の更正登記

昭和30年民事局長通達により、必ず基本契約を登記しなければならないことになった。
この基本契約は新法施行後においては、担保すべき債権の範囲と登記とみなされ、基本契約が登記されている旧根抵当権は担保すべき債権の範囲が登記された根抵当権とされる。
しかしながら、昭和30年民事局長通達が発出された以前に設定された旧根抵当権には、基本契約が登記されていないものとみられた。
この基本契約が登記されていない旧根抵当権は、担保すべき債権の範囲が登記されていない新法に適合しない根抵当権とされ、この根抵当権を変更又は移転するにはその前提として担保すべき範囲の更正登記を行う必要がある。

 

登記の目的 何番根抵当権更正
原因 遺漏
更正後の事項
債権の範囲 昭和何年何月何日銀行取引契約
登記権利者 根抵当権者
登記義務者 根抵当権設定者

 

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