
農地法の許可を条件とする仮登記(条件付所有権移転仮登記)を抹消する方法を解説します。
例えば農地を売買するには、農地法の許可を得なければなりません。
農地法の許可があって初めて農地の所有権が売主から買主に移転します。
よって、農地法の許可を得るまでは所有権移転登記をすることができません。
そこで、農地法の許可を得ることを条件に売買契約を締結した場合、農地法の許可を得るまでの間の権利を保全するために仮登記することが認められています。
農地を売買すると、買主は、売主に対して農地法の許可申請に協力することを求める権利、「許可申請協力請求権」を有することになるのですが、この請求権は、権利を行使できる時(通常、売買契約が成立した日)から10年間行使しないと時効によって消滅することになります。
(改正民法(2020年4月1日施行)では、買主が権利を行使することができることを知った時から5年間又は、権利を行使することができる時から10年間、請求権を行使しない場合、当該請求権は時効によって消滅)
農地法の許可申請協力請求権が時効によって消滅すると、買主は、もはや当該農地を取得することができず、売主は買主に対して農地法の許可を条件とする仮登記の抹消を求めることが可能となります。
ただし、農地売買の契約後に当該農地が非農地となった場合は、当該農地を農地法の許可を得なくても確定的に取得することができる(農地から非農地になって時に売主から買主へ所有権が確定的に移転する)ので、契約成立から10年が経過したとしても、非農地になった後になされた時効の援用(時効の利益を得ることを相手に伝えること)は効力を生じないとされています。
この場合は、売主は買主に対して、許可申請協力請求権が時効消滅したことを主張して、仮登記の抹消を求めることができないことになります。
10年以上前になされ農地法の許可を条件とする条件付所有権移転仮登記であれば、時効によって消滅しているものとして仮登記の抹消を仮登記名義人(買主)に求めることになります。
仮登記を抹消するには、仮登記名義人の協力が必要になりますので、仮登記名義人に仮登記の抹消をお願いするため、仮登記名義人に連絡を取る必要があります。
仮登記名義人と面識がない、連絡先が分からない場合、その所在調査が必要になります。
仮登記名義人の登記簿上の住所をもとに、住民票や戸籍謄本等を請求して所在調査を行います。
所在調査により仮登記名義人の住所が判明すれば、仮登記の抹消の協力をお願いする手紙等を送付します。
連絡を取った結果、仮登記名義人から任意の協力を得ることができる場合は、共同申請により仮登記の抹消登記を申請します。
許可申請協力請求権が時効消滅したことを原因に仮登記を抹消してもよいですが、これを前提に、仮登記名義人に条件付売買契約を解除してもらう、又は条件付所有権を放棄してもらう等によって、仮登記を抹消することもできます。
登記簿上の住所からは住民票等を取得できず、仮登記名義人の住所が判明しない場合は、公示送達による仮登記抹消登記請求訴訟を検討します。
戸籍謄本等から仮登記名義人の死亡が判明した場合、仮登記を抹消するには、仮登記名義人の相続人全員の協力が必要になります。
この場合、仮登記名義人の相続人調査をおこない、相続人を確定させた上で、仮登記名義人の相続人全員の協力を得る必要があります。
仮登記名義人の相続人全員が判明した場合、各相続人に仮登記の抹消のお願いの連絡を入れます。
相続人全員の任意の協力を得ることができれば、仮登記名義人の相続人全員との共同申請により仮登記の抹消登記を申請します。
消滅時効を原因に仮登記を抹消してもよいですが、条件付所有権を仮登記名義人の相続人が相続した上で、条件付売買契約を解除、又は条件付所有権を放棄してもらうことにより仮登記を抹消することもあります。
仮登記名義人(仮登記名義人死亡の場合は、その相続人全員)の任意の協力を得ることができない場合、仮登記名義人を相手に仮登記抹消登記請求訴訟を提起します。
相続人が相手方の場合、非協力的な相続人のみを相手方とすることも可能ですが、相続人の一部を相手に訴訟した場合、その後の仮登記抹消登記の申請が煩雑(相続人の一部は共同申請、相続人の一部は判決による単独申請)になるため、実務的には、任意の協力を得ることができる相続人を含めて、相続人全員を相手として訴訟を提起します。
事案により異なります。
仮登記名義人に連絡が取れ、任意の協力を得ることができるケースでは、1か月程度で登記完了することもあれば、仮登記名義人が死亡しており、相続関係が複雑で、且つ、訴訟が必要なケースでは、登記完了までに1年程度かかることもあります。
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