医療法人の理事の任期について(理事長の変更登記)

設立以来、一度も理事の変更登記を行っていない医療法人からのご相談を受けました。
医療法人の理事に関する規定は何度か法改正がなされており、理事の任期については、その就任日により異なる取扱いがなされます。
以下は、医療法人の理事に関するもののうち、理事変更の登記に関連する事項を備忘録として記事にしたものです。

医療法の一部を改正する法律(昭和60年12月27日法律第109号)

医療法の一部を改正する法律(昭和60年12月27日法律第109号)が昭和61年6月27日に施行され、理事の員数、監事の必置、理事の代表権等についての改正がなされた。

 

理事の員数及び任期
昭和60年改正法以前は、理事は必須の機関であったがその員数及び任期については法定されていなかった。
昭和60年改正法により、理事3人以上を置くことが法定された。
但し、都道県知事の認可を受けた場合は、1人又は2人の理事を置けばよいこととされた。
理事の任期については、改正前と同じく改正後においても法定されなかった。
また、監事1人以上を置くことが法定された。

 

理事の代表権
昭和60年改正法前
昭和60年改正前においては、理事が数人いる場合は、理事全員が代表権を有し、かつ、各自が代表することになっていた。(各自代表)
定款又は寄附行為で理事長を定め、当該理事長のみが医療法人を代表すると定めたとしても、善意の第三者に対抗することができず、定款又は寄附行為で理事長を定めたとしても、理事全員につき理事の資格で登記しなければならなかった。

 

昭和60年改正法以後
昭和60年改正以後は、理事のうち1人は理事長とし、定款又は寄附行為の定めるところにより医師又は歯科医師である理事の中から理事長を選出しなければならないことになった。

 

医療法人の代表権は理事長のみが有し、他の理事には代表権がないこととされた。

 

理事長は、医師又は歯科医師である理事のうちから選任しなければならないところ、都道県知事の認可を受けた場合は、医師又は歯科医師でない理事から選任することができるとされた。

 

理事の登記については、理事長の資格で理事長のみが登記されることになった。

 

改正法附則第6条により施行の際現に存する医療法人の理事の員数、理事長選出等については、施行日から2年間(経過措置期間)は、なお従前の例によるとされた。
既存の医療法人は、改正法施行から2年間は、理事の増員(理事3人未満の場合)、理事長の選出等が猶予された。

 

昭和63年6月26日までに、既存の医療法人の理事の一部が辞任等により退任した場合、後任の理事につき代表権のある理事として、理事の資格で登記することが認められた。

 

また、既存の医療法人が理事を増員した場合も同様に、増員理事につき代表権のある理事として、理事の資格で登記することが認められた。

 

昭和63年6月26日までに、既存の医療法人の理事全員が任期満了により退任し、後任理事の選任と同時に、当該理事の中から理事長を選出した場合、当該理事長のみを理事長の資格で登記することが認められた。
(改正法附則第6条によれば、既存法人は施行日から2年間は、定款等にもとづき理事のうちから理事長を選出する必要はないものの、改正法に従い理事のうちから理事長を選出した場合、改正法附則第6条にかかわらず、理事長の資格で理事長のみを登記することも認められるとされた。)

 

経過措置の期間満了後の取扱い
経過措置の期間満了(昭和63年6月26日)後は、理事長の登記がなく理事の登記がされたままの医療法人について、理事に係る資格証明書及び印鑑証明書は交付されないこととされた。
経過措置の期間満了後においては、既存の医療法人であっても理事を3人以上を設置し、代表者として理事長を選出しなければならず、理事長の資格で理事の登記をしなければならないこととされたため。

 

良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)

良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(平成18年法律第84号)が平成19年4月1日に施行され、役員の任期が法定され、2年を超えることができないとされた。

 

役員の任期の法定
平成18年改正前においては、医療法人の理事の任期は法定されていなかったところ、平成18年改正法により医療法人の理事の任期は2年を超えることができないとされた。

 

前述のとおり、平成18年改正前においては、医療法人の理事の任期は法定されていなかったのものの、医療法人の多くは、厚生労働省のモデル定款に従い、理事の任期について次のような定款規定を設けていた。

モデル定款(役員の任期)
1 役員の任期は2年とする。ただし、再任を妨げない。
2 補欠により就任した役員の任期は、前任者の残任期間とする。
3 役員は、任期満了後といえども、後任者が就任するまでは、その職務を行うものとする。

3項の規定は、いわゆる「任期伸長規定」と解されていた。
定款で定めた任期が経過しても後任者が就任するまではその任期が伸長するものとされ、登記実務においても後任の理事が就任した日を退任日とする、前任理事の任期満了による退任登記がなされていた。(選任懈怠でないとされていた。)

 

しかしながら平成18年改正法により、理事の任期は2年を超えることができなくなったので定款に任期伸長規定を定めていたとしてもこのような任期の伸長は認められないことになった。

 

ところで、理事の任期につき平成18年改正法には次の経過措置が設けられていた。
平成18年改正法の施行日(平成19年4月1日)において現に医療法人の役員である者の任期は、改正法の施行の際におけるその者の役員の任期としての残任期間とする。

 

平成18年改正法の施行時に在任する医療法人の理事が、任期伸長規定によりその任期が伸長されている場合、その任期の残任期間はいつまでなのか解釈が分かれている。

 

平成18年改正法施行時に任期伸長規定の適用を受けている理事の残任期間
A説
平成18年改正法施行日(平成19年4月1日施行)に任期伸長規定の適用を受けている理事については以後も任期伸長規定の適用を認め、後任者が就任するまでと解する説

 

B説
平成18年改正法施行日(平成19年4月1日施行)以後は、任期伸長規定は認められないため、就任から2年経過までの期間が残任期間と解する説

 

C説
平成18年改正法施行日までは任期伸長規定が認められることから、改正法施行時までを残任期間とする説

 

例えば、甲が平成15年6月30日理事に就任(任期2年・任期伸長あり)、その後、甲の後任として乙が平成19年6月30日理事に就任した場合の理事甲の退任日は、A説では平成19年6月30日、B説では平成17年6月30日、C説では平成19年4月1日となる。

 

施行日前に設立された医療法人は、施行日から1年以内に、改正法に適合するよう定款又は寄附行為を変更し、監督官庁の認可を受けなければならないとされた。
また、施行日前に設立された医療法人の定款又は寄附行為は、施行日から1年を経過する日(定款等の認可申請をした場合は認可があった日)までは、改正法第6章に定める定款又は寄附行為とみなされるが、当該定款又は寄附行為と同章の規定が抵触する場合においては、当該抵触する部分については、同章の規定は適用しないとされた。

 

この経過措置により、改正法施行日から1年以内に定款又は寄附行為を変更し、任期伸長規定により任期が伸長されている理事の後任者の選任等の必要な措置をとらなかった医療法人の理事の任期が問題になる。

A説
改正法施行日から1年の経過により任期満了により退任するとする説(平成20年3月31日任期満了)

 

B説
附則第11条の残任期間を後任の理事が就任するまでと解し、施行日に任期伸長規定の適用を受けていた理事は、後任者が就任するまで引き続き在任するとする説

 

医療法の一部を改正する法律(平成27年9月28日法律第74号)

医療法の一部を改正する法律(平成27年9月28日法律第74号)が、平成28年9月1日に施行され、役員の選任機関、役員の権利義務承継規定の創設等の改正がなされた。

 

役員の選任機関の法定
改正前は、役員の選任については、定款又は寄附行為の定めるところによるとされていたが、社団たる医療法人は社員総会により、財団たる医療法人は評議員会より選任するものとされた。

 

理事の権利義務承継規創設創設
この法律又は定款若しくは寄附行為で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。

 

例えば、理事長A、理事B、理事C、3名の医療法人において、理事全員が任期満了により退任した場合、これにより理事の法定数を欠くことになるので、理事全員は任期満了による退任後も理事としての権利義務を有することになる。
この場合、理事長Aは速やかに社員総会を招集し(社団たる医療法人の場合)、理事を選任する必要がある。
(理事長についても権利義務承継規定が設けられているので、理事長Aは、任期満了による退任後も引き続き理事長の職務を行うことができる。社員総会を招集するのは理事長の職務権限に属する行為。)

 

権利義務承継規定の新設により、仮理事の選任制度は廃止された。

 

なお、この理事の権利義務承継規定については、改正法施行日以後に、理事の法定数(理事3名)又は定款等で定めた理事の員数が欠けた場合に適用されるものと解されているので、施行日前に理事につき、法定数又は定款等で定めた員数を欠いた場合は、権利義務承継規定の適用はないものと解されている。

 

平成19年4月1日以後に就任した理事全員が、平成28年8月31日までに任期満了により退任したが、後任の理事の選任を行っていない場合、どのように後任の理事を選任すればよいのか?

 

前述の通り、権利義務承継規定については、改正法施行日である平成28年9月1日以後に任期満了に退任したことにより法定又は定款で定める理事の員数を欠くに至った場合に適用されることから、改正法施行日前に任期満了により退任した理事長については権利義務承継規定は適用されないため、後任の理事を選任するための社員総会を招集することができない。
この場合、都道県知事に一時理事長の職務を行うべき者の選任を申立て、選任された一時理事長の職務を行うべき者が社員総会を招集して後任の理事を選任することが考えられる。

 

医療法人設立以後、一度も理事長の変更登記を行っていない場合の対応

@平成19年4月1日前に設立
平成19年4月1日に任期伸長規定により任期が伸長されている理事については、以下の規定を根拠にいまだ任期中であると解されており、当該理事長が社員総会を招集し、後任の理事を選任することが可能であると解されている。
後任理事の就任により、理事は任期満了により退任すると考えられる。

 

平成18年改正法 附則第11条
この法律の施行の際現に医療法人の役員である者の任期は、新医療法第46条の2第3項の規定にかかわらず、この法律の施行の際におけるその者の役員としての残任期間と同一の期間とする。

 

平成28年改正法 附則第3条
附則第1条第2号に掲げる規定の施行の際現に医療法人の役員である者の任期については、なお従前の例による。

 

A平成19年4月1日以後に設立
(但し、設立後最初の任期満了の日が平成28年9月1日以後の場合は、下記B)
平成28年8月31日以前に理事全員が任期満了により退任した場合、権利義務承継規定が適用されない。
よって後任の理事を選任するには、都道県知事に一時理事長の職務を行うべき者の選任を申し立てを行う。

 

なお、急迫の事情が認められる場合、以下を根拠に任期満了により退任した理事が社員総会を招集して、後任の理事を選任することが可能であると考える。(ただし、実際に登記を行う場合、管轄法務局に要相談)

 

平成19年1月11日民商第31号商事課長通知
社会福祉法人の理事全員が任期満了により退任した場合において、登記事項の変更を証する書面中に、仮理事の選任を待つことなく当該退任した理事により後任理事を選任しなければならない急迫の事情がある旨の記載があるときは、仮理事の登記を経ずに後任理事の就任の登記を申請することができる。

 

平成19年3月30日民商第811号商事課長通知3の(3)
2年の任期を経過した理事長が関与した登記の申請の取扱いは、平成19年1月11日民商第30号民事局長回答における取扱いと同様である。

 

商業・法人登記の申請書様式 第4 NPO法人4-5 記載例(法務省ホームページ)
NPO法人の理事が任期満了により退任し、社員総会を招集することができない場合、本来であれば仮理事を選任すべきところ、仮理事の選任を待つことができない急迫の事情がある場合において、社員総会を開催した場合の社員総会議事録の記載例が掲載されている。

 

B平成28年9月1日以後に設立
理事の全員が任期満了により退任した場合であっても、権利義務承継規定により、退任した理事は引き続き理事としての職務を行う権利と義務を有するので、任期満了した理事長が社員総会を招集して、当該総会で後任の理事を選任すればよい。
(なお、権利義務承継規定が創設されたことにより、平成19年1月11日民商第31号商事課長通知による取扱いの適用はない。)

 

 

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