公正証書遺言による相続登記申請のご依頼を頂きましたが、公正証書遺言書に記載の不動産の表示に誤記があったケースをご紹介します。
権利に関する登記を申請するには、原則として「登記原因証明情報」を提供しなければならないとされています。
登記原因とは、登記の原因となる「事実」又は「法律行為」のことであり、登記原因証明情報には、登記原因となる「事実」又は「法律行為」の存在を証する内容が記載されている必要があります。
公正証書遺言による相続登記を申請する場合、公正証書による遺言書が登記原因証明情報の一部になりますので、登記申請の際には、その正本又は謄本を提出する必要があります。
特定財産承継遺言(いわゆる「相続させる旨の遺言」)の場合、相続させる不動産を特定するため、遺言書には、法務局発行の不動産登記事項証明書の記載をもとに、不動産を記載することになります。
土地であれば、所在、地番、地目及び地積により、建物であれば、所在、家屋番号、種類、構造及び床面積を記載することにより不動産を特定します。
依頼者様より預かった公正証書遺言書を確認すると、不動産の表示に記載のミスがありました。
登記上の地目は田又は畑であるのに、遺言書では宅地となっており、地積に関しても小数点以下まで記載されていました。
これは、おそらく、固定資産税の評価証明書又は課税明細書をもとに不動産の表示を記載したものと思われます。
登記地目が田又は畑であっても、市街地にある農地は、課税上は、宅地に準じて固定資産税が課税されることがあります。この場合、課税地目は「宅地」と記載されます。
また、宅地及び鉱泉地の登記地積は小数点以下2位まで記載されますが、それ以外の土地で10平方メートルを超える場合、1平方メートル未満は切り捨てられ小数点以下は記載されません。
しかし、登記地目が農地で課税地目が宅地の場合、評価証明書等の記載は、登記地目、課税地積ともに、小数点以下が記載されていることがあります。
登記申請書に記載する不動産の表示と登記原因証明情報たる遺言書に記載した不動産の表示は一致していければなりません。
不動産の表示に誤記のある遺言書を添付して相続登記を申請すれば、法務局から補正の連絡を受けます。
このように、公正証書の記載に誤りがあるときは誤記証明書で対応できる場合があります。
その記載から不動産を特定することは可能だが、誤記等の軽微なミスがあるときは、その誤記等を修正した誤記証明書を当該遺言書を作成した公証人に作成してもらうことができます。
なお、本来は不動産Aを相続させるつもりであったが、公正証書遺言書には、間違って不動産Bと記載されている場合、これは、誤記の範囲を超えており、遺言の内容そのものの変更に当るので、誤記証明書で対応することはできません。
さっそく、公証役場に遺言書と不動産登記事項証明書をメールして誤記を確認してもらいました。
翌日、誤記証明書の発行の準備ができたことと、誤記証明書を請求するには、相続人の委任状、相続人の印鑑証明書、遺言者の除籍謄本、私の身分証明書が必要であることの連絡がありました。
予約の上、後日公証役場に誤記証明書を受取りに行きました。
この公正証書を作成した公証人は、誤記について一言も触れることなく、淡々と執務に当っていました。
公正証書遺言書に誤記証明書を添付して相続登記を申請、無事登記が完了しました。