信託不動産の売買と登記手続

福祉信託において、受益者が施設に入所するための費用を捻出するために、信託不動産を売却しなければならないことがあります。

 

より資産価値、収益性の高いの不動産に組み替えるために、資産価値、収益性の低い信託不動産を売却したい場合もあります。

 

そもそも受託者は信託された不動産を売却することができるのでしょうか?

 

受託者の権限
信託法によりますと、「受託者は、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有する。(信託法26条)」とされていますので、信託契約等で設定された信託目的を達成するために必要であれば信託財産である不動産を売却することが可能です。

 

ただし、信託法26条には但し書きが有り、「ただし、信託行為によりその権限に制限を加えることを妨げない。」と規定されていますので、信託契約で信託不動産を売却することが禁止されていれば、受託者は当該信託不動産を売却することができませんし、信託不動産を売却するには第三者の同意が必要との定めがあれば、受託者は当該第三者の同意を得ないと当該信託不動産を売却することができないことになります。

 

信託目録の確認
信託契約において、信託法の定めと異なる信託財産の管理・処分の方法の定めがある場合、それらは信託目録に記録すべき事項とされており、信託契約で信託不動産の売却禁止や、売却につき第三者の同意を要する等の条項が定められている場合、それらの条項は信託目録に記録されます。
信託不動産を売買する場合、信託目録の確認は必ず行う必要があります。

受託者は、信託不動産を売却することができる。
ただし、信託契約において、受託者の権限を制限する条項を定めていることがある。
受託者の権限を制限する条項の有無を確認するため、信託目録を確認する必要がある。

 

信託不動産を売却することにより受託者が得た金銭は、信託財産に属することになりますので、受託者の固有財産と分別して管理するために、売買代金は受託者名義の固有口座ではなく、信託口座に振込む必要があります。

 

信託不動産を売却したときの登記

信託不動産を売却したときは、当該信託不動産は、信託財産から離脱し、買主の固有財産になります。

 

信託不動産を売却したときの登記手続きは、売買による所有権移転登記の申請と、信託不動産が信託財産から離脱したことによる信託登記の抹消登記の申請を同時に行います。

 

受託者Yと買主Xとの間で、下記の信託不動産を売買したときの登記申請書
土地 評価額2,000万円 
建物 評価額1,000万円

 

 

登記申請書

 

登記の目的 所有権移転及び信託登記抹消
原   因 所有権移転  令和○年○月○日売買
      信託登記抹消 信託財産の処分
権 利 者 ○○県○○市○○町○丁目○番地
      X 
義 務 者 ○○県○○市○○町○丁目○番地
      Y

 

添付書面
登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明書
住所証明情報 代理権限証明情報 

 

登記識別情報通知書及び登記完了証は登記所での交付を希望します。

 

令和○年○月○日申請 ○○法務局 御中

 

課税価格
土地 金2,000万円
建物 金1,000万円

 

登録免許税 金50万2千円
内訳
所有権移転分 土地 金30万円(租税特別措置法72条1項)
       建物 金20万円
信託分       金2,000円

 

不動産の表示
【省略】

登録免許税
売買による所有権移転登記の登録免許税
土地 固定資産税評価額の1.5%(令和3年3月31日まで)
建物 固定資産税評価額の2%

 

信託登記の抹消登記の登録免許税
不動産1個に付き1,000円