
今回は、休眠担保権を裁判所の嘱託により抹消した珍しい事例を紹介します。
休眠担保権の意味
ここでは、休眠担保権とは明治、大正、昭和初期等に設定された古い抵当権で抹消登記がなされていない抵当権の意味で用いています。
今回、ご依頼頂いた抹消すべき休眠担保権は、明治30年代に設定された抵当権でした。
古い抵当権を抹消する方法は、いくつかありますが、それを検討する上で、抵当権が設定されている不動産の閉鎖登記簿謄本を取得します。
閉鎖登記簿謄本には設定時の所有者であったり、被担保債権の弁済期等、現在の登記事項証明書では判明しない権利内容に関して確認することができます。
今回、抹消すべき休眠担保権が設定されている不動産の登記事項証明書によると権利関係は次のとおりでした。
甲区
1番 所有権移転 昭和43年 相続 所有者甲1
2番 所有権移転 昭和63年 相続 所有者甲2
乙区
1番 抵当権設定 明治36年 金円借用設定
抵当権者 乙
付記1号 抵当権移転 明治38年 遺産相続
抵当権者 乙1
現在の登記事項証明書では、コンピュータ化への移行時に現に効力を有する登記事項のみ移記されますので、移行時に効力を有していない登記事項は記録されません。
また、コンピュータ化移行時には、抵当権の被担保債権の弁済期は法改正により登記事項でなくなっているので、現に効力を有する抵当権を移記する際、弁済期は記録されません。
次にこの不動産の閉鎖登記簿謄本から判明した権利関係は次のとおりです。
甲区
1番 明治29年、家督相続によりAが所有権を取得
2番 明治39年、○○区裁判所の競売開始決定により乙1の申立ありたること登記す
3番 明治39年、○○区裁判所の競落許可決定謄本により乙1の所有権取得を登記す
4番 明治40年 売買により甲のため所有権の取得を登記す
5番 所有権移転 昭和43年 相続 所有者甲1
この閉鎖謄本で分かることは、1番抵当権設定当時の所有者はAであり、乙のために抵当権を設定した。
遺産相続により乙から抵当権を相続した乙が管轄裁判所に競売開始申立て、裁判所の許可によりこの不動産を競落により取得した。
現行法であれば、不動産競売がなされると、その上に存する抵当権は原則消滅し、裁判所が登記所に抵当権の抹消登記を嘱託します。
今回のケース、現行法であれば裁判所が乙名義の1番抵当権の抹消登記を嘱託してくれるのですが、その当時はどのように処理がなされていたのでしょうか?
この場合、当時適用されていた法律である旧民事訴訟法を確認する必要があります。
旧民事訴訟法の条文を確認すると裁判所が抹消登記を嘱託する旨の記載がありました。
早速管轄の裁判所に事情を説明し、嘱託による抵当権の抹消登記が可能かどうか問い合わせたところ、たぶん可能なので、申立書と謄本を提出してもらいたいとの回答を頂きました。
申立書ですが非常に珍しい事件ですので参考になる書式等はないので、申立人は不動産の所有者であること、この不動産に抵当権設定登記がなされていること、この不動産は競売がなされたこと、これにより抵当権が消滅したこと、しかしながら抹消登記がなされず登記がそのままになっていることを記載して、裁判所に抹消登記の嘱託を求めました。
申立書の提出から1ヶ月ほどで無事、裁判所の嘱託により1番抵当権の抹消登記が完了いたしました。
抹消登記の原因は 「明治39年○月○日競落許可決定」になっていました。
今回のケースは、初めての経験でしたが、ネット検索すると同業者の方で、同様な案件を裁判所の嘱託により処理したことが書かれていました。
当時は、不動産競売があっても、裁判所から抵当権抹消登記の嘱託がなされないことがままあったのかもしれません。
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