
産業組合(信用販売購買利用組合)・農業会の抵当権設定登記を抹消する方法を司法書士が解説致します。
産業組合・農業会については、こちらもご覧下さい。
○○信用販売購買利用組合を抵当権者とする抵当権抹消登記
産業組合・農業会の抵当権設定登記を抹消するには次の方法が考えられます。
@供託による休眠担保権の抹消(不動産登記法第70条3項後段による方法)
A解散法人の休眠担保権の抹消(不動産登記法第70条3の2による方法)
@の方法は、抵当権者の所在が不明であり、被担保債権の弁済期から20年が経過している場合に、元本、利息、損害金の全額を供託することによって、不動産の所有権者が単独で抵当権抹消登記の申請を可能とするものです。
産業組合等の法人の所在不明とは、当該法人の商業・法人登記簿について当該法人についての記録がなく、かつ、閉鎖した登記簿も保存期間の経過により廃棄されている場合とされています。
産業組合・農業会は、昭和20年代には解散・清算結了されており、閉鎖登記簿の保存期間は20年であることから、産業組合・農業会の閉鎖登記簿の交付を請求しても取得できず、産業組合・農業会の抵当権抹消登記は、@の方法が使えるものと思われるかもしれませんが、多くの法務局では保存期間の経過後も会社・法人の閉鎖登記簿を保存しており、交付請求すると閉鎖登記簿謄本が取得することができてしまうことが多いです。
産業組合・農業会の閉鎖登記簿謄本が取得できた場合は、@の要件である抵当権者の所在不明には当たらないので@の方法によって抵当権を抹消することはできません。
(閉鎖登記簿謄本が取得できた場合は、後述のAの方法を利用できるか検討します。)
なお、産業組合・農業会の閉鎖登記簿が廃棄されており、閉鎖登記簿謄本を取得できないこともありますので、その場合は、他の要件を満たせば@の方法で抵当権を抹消することが可能です。
@の要件の「被担保債権の弁済期から20年が経過していること」ですが、昭和39年改正前の不動産登記法に基づき登記された抵当権については、被担保債権の弁済期が登記事項でしたので、(不動産の)閉鎖登記簿謄本を取得することにより弁済期から20年が経過していることを証明するのは比較的容易です。
(紙の登記簿に記載されていた登記の内容をコンピュータに移記するにあたり、既に被担保債権の弁済期は抵当権設定登記の登記事項ではなくなっていましたので、弁済期に関してはコンピュータ(登記記録)には移記されませんでした。よって、現在の不動産登記簿謄本(登記事項証明書)を取得しても弁済期は登記されておらず、登記事項証明書では弁済期を確認することはできません。)
産業組合・農業会の閉鎖登記簿謄本が取得できず、被担保債権の弁済期から20年が経過していることが確認できれば、供託の手続きを行います。
閉鎖登記簿に元本、弁済期、利息・損害金の利率、利息の支払時期等が記載されていますので、それをもとに供託金額を計算します。
供託金額は、登記されている債権額(額面)を供託すればよい(現在の貨幣価値に換算する必要はありません。)ので、明治時代、大正時代に設定された抵当権であれば、供託金額は現在までの遅延損害金を含めても数千円で済むことが多いです。
供託手続きが完了すると供託書正本が交付されます。
法人の所在調査報告書、被担保債権の弁済期が記載されている(不動産の)閉鎖登記簿謄本、供託書正本が@の方法による抵当権抹消登記の添付書類となります。
Aの方法ですが、令和5年4月から施行された新しい制度です。
解散法人を抵当権者とする休眠担保権の抹消登記
法人である抵当権者が解散しており、(@)その法人の清算人の所在が判明しないため、抵当権抹消登記を共同申請により抹消できない場合において、(A)被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、(B)当該法人の解散の日から30年が経過しているときに、不動産の所有権者が単独で抵当権抹消登記の申請を可能とするものです。
抵当権者が産業組合・農業会の場合、要件(@)(A)(B)のすべてを満たすことがほとんどです。
(B)の法人の解散ですが、産業組合の多くは、昭和18年に施行された農業団体法という法律の規定により、行政官庁の命令で解散しています。
農業団体法により解散した産業組合の権利義務は、農業団体法によって設立された農業会が包括承継しています。
その農業会も昭和22年に農業団体法が廃止されたことに伴い昭和23年8月15日に法定解散しています。
産業組合の根拠法である産業組合法は、昭和23年施行の消費生活協同組合法によって廃止され、消費生活協同組合等に組織変更した産業組合を除き、昭和25年10月1日に産業組合は法定解散することになりました。
以上のとおり、消費生活協同組合等に組織変更した一部の産業組合を除き、産業組合・農業会は昭和25年までには解散しており、「法人の解散の日から30年が経過」といった要件を満たすことになります。
要件(@)の清算人の所在が判明しない場合ですが、産業組合・農業会は、昭和20年代の前半に解散しており、その当時の清算人は、そのほとんどが死亡しているものと思われます。
清算人の地位は相続人に承継されませんので、当時の清算人が死亡している場合、要件(@)の清算人の所在が判明しないに該当します。
清算人の所在(生存)を確認するため、閉鎖登記簿謄本に記載されている清算人の住所をもとに戸籍謄本等を請求しますが、当時は、本籍地と住所が同じであることが多く、登記簿上の住所を本籍地として戸籍謄本等を請求すると清算人の戸籍謄本等を取得できることが多いです。
その戸籍謄本に清算人の死亡の記載があれば、この戸籍謄本をもって清算人の所在が判明しないことを証明することができます。
もちろん、登記簿上の住所から清算人の戸籍謄本等を取得できない場合もあります。この場合、登記簿上の住所に宛てて通知書を郵送します。「宛所に尋ねあたりません」等で郵便物が返送されれば、それをもって清算人の所在が判明しないこととなります。
要件(A)の「被担保債権の弁済期から30年が経過」ですが、これは、@の方法のところで述べたとおり比較的容易に証明することが可能です。
解散法人の休眠担保権の抹消の制度ができるまでは、産業組合・農業会を抵当権者とする抵当権の抹消登記をするには、裁判所に清算人の選任申立てを行い、裁判所によって選任された清算人と共に共同申請するか、清算人を相手に抵当権抹消登記請求訴訟を提起するかでした。
この制度ができたことにより、産業組合・農業会の抵当権設定登記の多くは、Aの方法により抹消することができるようになりました。産業組合・農業会の閉鎖登記簿謄本が取得できない場合は、@の方法により抹消することができますので、産業組合・農業会の抵当権抹消については、@又はAの方法のいずれかでほぼ対応することができるようになりました。
今後は、産業組合(○○信用販売購買利用組合)・地方農業会の抵当権は、この制度を利用することで抹消することができるケースが多いものと思われます。
「相続した不動産を売却しようとしたところ、産業組合・農業会の抵当権設定登記がされていたため、このままでは、売却することができないと不動産業者に言われた。この登記を抹消することはできないか」といったご相談が多いです。
当事務所では、清算人選任を申し立てたうえで、清算人相手に産業組合・農業会の抵当権抹消登記を行ったこと、上記@の方法、Aの方法いずれの方法でも産業組合・農業会の抵当権抹消登記を行ったことがあります。
産業組合・農業会の抵当権の登記でお困りの方は当事務所にご相談ください。
お問い合わせ
1 お電話によるお問い合わせ
052-848-8033
2 お問い合わせフォームからのお問い合わせ
お電話は平日10時から20時まで受け付けております。土日祝日は休業日ですが、事務所にいる時は対応いたしますので、一度おかけになってみてください。
お問い合わせフォームからのお問い合わせに対しては原則24時間以内に返信します。
(複雑で調査を要するお問い合わせは、回答までにお時間を頂くことがございます。)
正式なご依頼前に、見積手数料、相談料等の名目で費用を請求することは一切ございませんので、安心してお問い合わせください。
〒467−0056
名古屋市瑞穂区白砂町二丁目9番地
瑞穂ハイツ403号
司法書士八木隆事務所