自筆証書遺言の作成

遺言書作成

遺言には、普通方式の遺言として、自筆証書遺言、公正証書遺言及び秘密証書遺言の3種類の方式があります。
ここでは、自筆証書遺言について、解説します。

自筆証書遺言の特徴

自筆証書遺言は、証人の立会いが不要であり、費用をかけることなく、最も簡易迅速に作成することができる遺言です。
ただし自筆証書遺言は、紛失、偽造等のおそれがあり、家庭裁判所の検認を受けなければ遺言を執行することができないデメリットがあります。

※令和2年7月10日より法務局による自筆証書遺言の保管制度がスタートしました。
この制度を利用することにより、今まで自筆証書遺言のデメリットとされた、紛失・偽造等のリスクが軽減されることが期待されます。
また、法務局により保管されていた自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認を受けることなく遺言執行が可能になりました。
【参照】
法務局による保管制度を利用した自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

遺言は厳格な要式行為
遺言は民法が定める形式要件を満たす必要があり、形式要件を満たさない遺言は無効になってしまいます。
以下では、自筆証書遺言の要件を説明します。

 

自筆証書遺言の形式要件

自筆証書遺言の要件

遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、押印することが形式要件になります。
但し、遺言と一体として添付された財産目録に関しては、自書しなくてもよいことになっています。

 

要件の一つでも不備があれば、遺言無効になってしまいます。

 

要件@全文の自書

自書とは、遺言者本人が自分で書くこと、自筆のことを言います。
全文とは、遺言の本文のことを言います。
遺言者は、遺言の本文の全部を自分で書く必要があります。

 

手が不自由な人が、足や口を用いて筆記した場合も、自書といえます。

 

他人が遺言者の口述内容を正確に筆記した場合であっても、それは自書には該当しません。

 

パソコン、ワープロ等を用いて作成した遺言は自書による遺言とはいえず無効になります。
なお、平成31年1月17日施行の改正民法により、遺言書と一体のものとして財産目録を添付する場合は、その目録については自書でなくてもよいことになりました。(後述)

 

音声録音、ビデオ撮影による遺言は、自書による遺言には該当しませんが、自筆証書遺言の作成とは別に、遺言を作成した動機、相続人に対する思い等を録音等して残すことは可能です。
また、録音やビデオ撮影は、遺言作成時に遺言能力を有していたことの有力な証拠となります。

 

要件A日付の自書

日付を記載する趣旨

・遺言作成時において遺言者が遺言能力の有無の判断のため
・複数の遺言が作成された場合の作成時期の前後を確定するため

 

日付の記載は、暦上の年月日を記載します。
年月の記載があっても、日の記載を欠く遺言は無効となります。

 

日付の記載も自書によらなければならず、日付スタンプ等を用いた遺言は無効になります。

 

吉日遺言の有効性

「昭和四拾壱年七月吉日」と記載された遺言は、その日付を特定することができず、日付の記載を欠く遺言として無効となります。(最判昭54年5月31日)

 

日付の記載場所

日付の記載場所については特段の制限はありませんが、
遺言書本体の冒頭又は末尾に記載しするのが一般的です。

 

遺言書を封入した封筒への記載

遺言者が遺言の全文及び氏名を自書して押印し、これを封筒に入れてその印章をもって封印し、封筒に日付を自書したケース⇒有効
(福岡高判昭和27年2月27日)

 

この判例で遺言が有効とされたのは、遺言書本体と封筒に一体性を認めることができると判断されたからだと思われます。

 

裁判例では、遺言書本体に日付の記載がなく、封筒に日付が記載された遺言を無効とした裁判例もありますので、遺言書を封筒に入れる場合であっても、日付は遺言書本体に記載することが適切であるといえます。

 

記載すべき日付

原則、遺言本文を書き終えた日の日付を記載します。

 

遺言本文を書き終えた日と日付を記載した日が異なるとき
11月5日に遺言本文を自書し、翌日の6日に全文を自書した日である5日の日付を自書した遺言は有効(大判昭和6年7月10日)

 

遺言者が、遺言書のうち日付以外の全文を記載して署名押印し、その8日後に当日の日付を記載して当該遺言書を完成させたときは、特段の事情のない限り、当該日付を記載した日に作成された自筆証書遺言として、有効である。(最判昭和52年4月19日)

 

要件B氏名の自書

氏名は必ずしも戸籍上の氏名である必要はなく、遺言者が誰であるか分かれば通称、ペンネーム等でもよいとされています。

 

氏名も自書することが求められていますので、ゴム印を用いた場合は、無効となります。

 

要件C押印

押印の趣旨

遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保すること(最判平成元年2月16日)

 

用いる印鑑の種類

実印である必要はなく、認印でも差し支えありません。

 

指印(拇印)の有効性

遺言者が印章に代えて指印(栂指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること)をもって足りる。(有効)
指印が遺言者本人の押捺にかかるものであることは、必ずしも遺言者本人の指印の印影(以下「指印影」という。)であることが確認されている指印影との対照によつて立証されることを要するわけではなく、証人の証言等によつて立証される場合のほか、遺言書の体裁、その作成、保管の状況等諸般の事情から推認される場合でも差し支えないと解するのが相当である。(最判平成1年6月23日)

 

花押の有効性

花押を書くことは,印章による押印とは異なるから、民法968条1項の押印の要件を満たすものであると直ちにいうことはできない(無効)。(最判平成28年6月3日)

 

押印の場所

押印の場所について特段の定めはないが、遺言書本体に署名した上で、その横又は下に押印するのが原則です。
遺言書本体を封筒に入れた場合、その封筒のみに押印した場合でも、遺言書本体と封筒の一体性が認められれば、その封筒のみに押印した場合でも、遺言が有効とされることもありますが、確実を期すためには、遺言書本体に署名押印することが適切であるといえます。

 

他人による押印

押印は、遺言者本人が行うことが原則です。
ただし、他人が押印した場合でも、遺言者本人が押印したのと同視できる特段の事情が認められれば、例外的に有効となることもある。

 

 

自筆証書遺言に添付する財産目録について

では、平成31年1月17日に施行された改正民法を確認しておきましょう。

民法第968条
1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
今回の民法改正で、第968条に2項が追加され、もともと2項だった条文が、3項に繰り下がりました。

本改正以前は、財産目録を添付する場合、その目録もすべて手書きで作成する必要がありました。
特に多くの財産を所有する遺言者にとって、手書きで財産目録を作成することは、大きな負担でした。

 

手書きの分量が多ければ多いほど、誤記や書き漏らしなどが生じるリスクが高くなりますし、ミスを発見したとしても自筆証書遺言の加除訂正って相当面倒であり、遺言書を作成するのは高齢者が多いことを考えるとその点でも財産目録も手書き作成が要求される改正前のルールは、自筆証書遺言作成のハードルを上げていました。

 

改正第968条2項を見てもらうと、「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産・・・の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書を要しない。」とされており、目録作成の方法を限定していません。

 

つまり、今までとおり手書きで作成することも、パソコンで作成することも可能になります。

 

パソコンで財産目録を作成する場合、遺言者本人以外の者が作成することができますので、私たち司法書士が遺言書作成支援として自筆証書遺言に添付する財産目録を作成することも可能です。

 

また、不動産であれば登記事項証明書を、預貯金であれば通帳の写しを財産目録として利用することもできます。

 

添付する財産目録のすべてに署名押印が必要

自書によらずに財産目録を作成する場合の注意点は、当該財産目録に遺言者本人の署名押印が必要な点です。

 

自書によらない記載が用紙の片面のみにある場合には、その面又は裏面の1か所に署名押印をすれば足りますが、自書によらない記載が両面にある場合には、両面にそれぞれ署名押印をしなければならない点は特に注意を要します。

 

たとえば、登記事項証明書を財産目録として利用する場合、登記事項証明書が複数項あれば、そのすべてに署名押印する必要がありますし、登記事項証明書が複数通あればそのすべてに署名押印しなければなりません。

 

このように、財産目録の分量が多いと署名押印を漏らす可能性があります。
署名押印漏れを防止するため、財産目録の分量は極力少なくする工夫をしたほうがいいです。

 

押印については、特に定めはないので、本文に押印した印鑑とは別の印鑑で押印したとしても構いませんが、遺言書の一体性を持たせるためにあえて異なる印鑑を使用する必要はないと思います。

 

自書した同一用紙にパソコン作成の財産目録の記載はNO!

自筆証書に財産目録を「添付」する場合に関するものですので、自書によらない財産目録は本文が記載された自筆証書とは別の用紙で作成される必要があり、本文と同一の用紙に自書によらない記載をすることはできませんので注意してください。

 

自書によらない財産目録を添付するメリット

沢山の財産をお持ちの方が自筆証書遺言を作成する場合、その財産を特定するためにすべて手書きしなければならなかった訳で、それを考えると多少の負担軽減にはなるのではないでしょうか。

 

ただし、自書以外で作成された財産目録を添付する場合、新たなルールに従って作成する必要があります。
このルールに従って作成しないと遺言書の全部又は一部が無効になってしまうリスクがあります。

 

自筆証書遺言は、形式不備(ルール違反)により無効になってしまうことが多い遺言形式です。

 

それ故、遺言書作成の相談を受けたときは、自筆証書遺言を積極的に勧めることはありません。

 

それでも、様々なご事情により、自筆証書遺言の作成を望まれる方もいらっしゃいます。

 

自筆証書遺言を作成する場合は、必ず専門家のチェックを受けることをお願いしています。

 

自筆証書遺言は誰でも1人で簡単に作成できるメリットがありますが、それがデメリットにもなってしまう遺言であることを覚えておいてください。

 

その他自筆証書遺言作成の注意点

遺言書が複数枚の場合

・契印について
遺言書が複数枚の用紙にわたる場合、その間に契印がなくても、また編綴されていない場合でも、その内容、外形の両面から見て1通の遺言書であると明認できる場合には、有効である。

 

なお、紛争予防のため、実務上は、遺言書が複数枚の用紙に渡る場合、契印又は編綴を行うのが望ましい。

 

・日付、署名押印について
遺言書が複数枚にわたる場合でも、その遺言書が1通の遺言書であると明認できる場合は、その一部にしか日付の自書、遺言者の署名押印がなされていなくても遺言は有効である。

 

 

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