山林売買による所有権移転登記の手続き

不動産を取得したときは所有権移転の登記を申請し、登記名義を売主から買主に変更します。
山林を購入、売却したときも例外なく所有権移転登記の申請が必要になります。
ここでは、山林売買を行ったときの所有権移転登記について司法書士が解説します。

 

山林の売買契約

売買により農地の所有権を移転するには、原則、農地法の許可が必要であるのに対し、売買により山林の所有権を移転するときには、事前の許可は必要とされていません。

森林と山林
森林
森林は、森林法第2条で次のとおり定義されています。

第2条 この法律において「森林」とは、左に掲げるものをいう。但し、主として農地又は住宅地若しくはこれに準ずる土地として使用される土地及びこれらの上にある立木竹を除く。
1 木竹が集団して生育している土地及びその土地の上にある立木竹
2 前号の土地の外、木竹の集団的な生育に供される土地

 

山林
不動産登記法事務取扱手続準則第68条で23種類の地目が定められており、「耕作の方法によらないで竹木の生育する土地」を山林と定めています。

 

実測売買と公簿売買の違いとは

実測売買
売買の対象となる土地の測量を行い、正確な面積を確定させた上で、その面積をもとに売買代金を確定させる方式の土地売買
また、売買契約時には、登記簿面積により一応売買代金を確定させ、引き渡し時までに実測を行い、決済時に登記簿面積の実測面積との差額を清算する方式により売買を行うこともあります。

 

公簿売買
公簿(土地登記簿)面積にもとづいて売買代金を決定する方式の土地売買
後日、公簿面積と実測面積に差異があることが判明したとしても清算は行いません。

 

地籍調査が未実施の山林の場合、登記簿に記録されている面積は、正確な面積ではないと言っていいでしょう。(現在でも、測量技術が未熟であった明治時代に行われた測量結果が、そのまま登記地積(面積)となっている土地がかなり残されています。)

 

適正な売買代金を決定するのであれば、測量を実施し、正確な面積を確定すべきでしょうが、山林の場合、取引の対象となる土地が広大であり、また境界を確定させるにも困難な場合もあり、測量を実施すると高額な費用が発生することから、山林売買は、公簿売買で行われるのが一般的です。

 

所有権移転登記の手続

売買契約の内容にもよりますが、買主が売買代金の全額を売主に支払ったときに、売買対象不動産の所有権が売主から買主に移転すると定めるのが一般的です。

 

【関連記事】不動産売買の登記手続(不動産の名義変更)

 

不動産の所有権が売主から買主へ移転したときは、買主名義の所有権移転登記を申請します。
山林売買による所有権移転登記の手続きは、宅地等の所有権移転登記の手続きと異なるところはありません。

 

管轄法務局
所有権移転登記は、売買対象不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。

 

所有権移転登記の申請人
所有権移転登記は、売主と買主が共同して申請します。

 

対抗力の付与
買主は自己名義の所有権登記を行うことにより、第三者に対して自身が対象不動産の所有者であることを対抗(主張)することができるようになります。

 

所有権移転登記に必要な書類

買主 住民票

 

売主 印鑑証明書(作成後3ヶ月以内のもの)
   登記済証(又は登記識別情報)
   固定資産税評価証明書

 

登記原因証明書(売買契約書等)

登記原因証明書とは登記申請に係る不動産の売買があったことを証する書面のことです。
※司法書士が代理人として所有権移転登記の申請を行う場合、登記原因証明書として売買契約書は提出せず、報告形式の登記原因証明書を別途作成して提出するのが一般的です。

 

【登記原因証明情報の例(法務局ホームページより)】

登記原因証明情報

1 当事者及び不動産
(1)当事者 権利者(甲) 法 務 太 郎
       義務者(乙) 甲 野 花 子

 

(2)不動産の表示
所 在 ○○市○○町一丁目
地 番 23番
地 目 宅 地
地 積 123.45平方メートル 

 

所 在 ○○市○○町一丁目23番地
家 屋 番 号 23番
種 類 居 宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床 面 積 1階 43.00平方メートル
    2階 21.34平方メートル

 

2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1)甲と乙は,令和元年6月30日,上記不動産の表示に記載した不動産の売買契約を締結した。
(2)売買契約には,所有権の移転の時期について,甲が売買代金を支払い,乙がこれを受領した時に所有権が移転する旨の特約が付されている。
(3)令和元年7月1日,甲は売買代金を支払い,乙はこれを受領した。
(4)よって,上記不動産の表示に記載した不動産の所有権は,同日,乙から甲に移転した。 

 

令和元年7月1日 ○○法務局○○出張所

 

上記の登記原因のとおり相違ありません。

 

(買主) 住所 ○○市○○町二丁目12番地
       甲 法 務 太 郎 印
(売主) 住所 ○○郡○○町○○34番地
       乙 甲 野 花 子 印

 

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売主が行う必要がある登記手続

買主へ所有権移転登記を申請する前提として売主が行う必要がある登記手続きについて説明します。

 

相続登記

相続登記が未了のため、売買対象不動産の登記名義が売主名義となっていない場合、買主への所有権移転登記の前提として相続登記を申請する必要があります。

 

遺産分割協議が成立しており、売買対象不動産を取得する相続人が決定しているのであれば、その相続人を名義人とする相続登記を申請します。

 

遺産分割協議が未了で、売買代金を法定相続分に応じて法定相続人全員で分配するのであれば、法定相続分に応じた法定相続人全員を登記名義人とする相続登記を申請します。
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所有者不明土地問題
所有者の所在が不明な土地が増加しています。
宅地等に比べ、山林は所有者の所在が不明な割合が高いと言われています。
所有者不明土地が増加している要因として、相続登記を放置していることがあげられています。
相続登記が放置される原因は様々ですが、ひとつに相続登記の申請にインセンティブが働かないことがあげられます。山林は経済的な価値が低いことが多く、相続人の誰もが所有することを望まないケースがよく見られます。
必要でない土地のために、登記費用を負担してまで相続登記を行うメリットを見いだすことができないということでしょうか。
しかしながら、現実問題として、所有者が判明しない土地の増加は様々な社会問題を起こしているのは確かです。
現時点では相続登記の申請は、相続人の義務ではありません(現在相続登記の義務化が検討されています。)が、相続登記の社会的な役割に鑑み、不動産を相続したときは、きちんと相続登記を行うことが望まれます。

時限立法として、不動産価格が100万円以下の土地に係る相続登記の登録免許税が免税される特例措置があります。山林は評価額が低いことが多く、この特例措置が適用されるケースがあるものと思われます。

 

市街化区域外の土地で市町村の行政目的のため相続登記の促進を特に図る必要があるものとして法務大臣が指定する土地のうち,不動産の価額が10万円以下の土地に係る登録免許税の免税措置

 

土地について相続(相続?に対する遺贈も含みます。)による所有権の移転の登記を受ける場合において,当該土地が市街化区域外の土地であって,市町村の行政目的のため相続による土地の所有権の移転の登記の促進を特に図る必要があるものとして,法務大臣が指定する土地(下欄参照)のうち,不動産の価額が10万円以下の土地であるときは、平成30年11月15日から令和3年(2021年)3月31日までの間に受ける当該土地の相続による所有権の移転の登記については,登録免許税を課さないこととされました。

 

抵当権抹消登記

売買対象不動産に抵当権設定登記がなされている場合、所有権移転登記を申請する前提として、この抵当権設定登記を抹消しなければなりません。
抵当権の登記を抹消するには、抵当権者と所有権者が共同して抵当権抹消登記を申請する必要があります。

 

山林では明治、大正期に設定された抵当権、いわゆる休眠抵当権の登記がなされているのを見ることがあります。
休眠抵当権とは、事実上抵当権の行使がなされる可能性はないものの抵当権の登記のみが残されている抵当権のことを言います。
このような休眠抵当権は、抵当権者が既に死亡しており、相続が何代かに渡って発生していることが一般的で、抵当権設定登記を抹消するのに通常の抵当権抹消登記より、その手続きが煩雑になります。
【関連記事】古い抵当権(休眠担保)の抹消登記

 

その他、差押、仮差押、買戻権、仮登記等、買主の権利行使を阻害する他人の権利に関する登記が売買対象不動産に設定されているときは、これら他人の権利に関する登記を抹消しなければ、当該不動産を売却することが事実上できないことになります。
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登記名義人表示変更登記

売主の登記名義上の氏名又は住所が、現在の氏名又は住所と一致しないときは、買主への所有権移転登記の前提として登記名義人の表示変更登記を申請しなければなりません。

 

売主が買主のために所有権移転登記を申請する場合、3ヶ月以内の印鑑証明書の提出が求められていますので、印鑑証明書に記載されている売主の氏名及び住所と、登記簿に記録されている所有者(売主)の氏名及び住所が一致している必要があります。

 

登記に必要な費用

所有権移転登記の申請には、登録免許税が課税されます。
また、司法書士に申請手続きを依頼する場合、司法書士手数料がかかります。

 

登録免許税

山林売買の所有権移転登記の登録免許税の額
固定資産税評価額×1.5%(※)

軽減税率
売買による所有権移転登記の登録免許税率は2%が本則ですが、特例措置により令和3年3月31日までに土地売買の所有権移転登記を受ける場合の登録免許税率は1.5%になっています。

購入する山林の固定資産税評価額の総額が300万円の場合の登録免許税の額
300万円×1.5%=4万5千円

 

登録免許税の負担者
契約により納税者を定めることができますが、申請する登記により登記上利益を受ける者(売買による所有権移転登記であれば買主)が登録免許税を負担するのが慣行になっています。

 

登録免許税の納税方法
登記申請書に、登録免許税相当額の印紙又は領収書を貼付することにより納付します。
また、オンラインで登記申請する場合は、ネットバンキングを利用することにより納付することができます。

 

【関連記事】不動産売買の登録免許税

司法書士手数料(報酬)

司法書士に登記手続を依頼する場合に発生する費用です。
司法書士に支払う手数料の額、報酬体系等は、各事務所で異なります。

 

当事務所に山林売買による所有権移転登記を依頼した場合の手数料(報酬)
所有権移転登記の申請 33,000円〜
決済立会い手数料 11,000円
(決済場所によって出張手数料が発生する場合あり)
以上、買主様ご負担

 

登記原因証明書作成費用 11,000円
権利証(登記識別情報通知書)がない場合、要相談
以上、売主様ご負担

 

山林買主の届出

登記手続きとは直接関係ありませんが、山林を取得したときは、事後的に届出が必要になる場合があります。

森林法(第10条の7の2)による届出

地域森林計画の対象となつている民有林を、売買により取得したときは、その旨を市町村に届け出る必要があります。
この届出は、森林の土地所有者となった日から90日以内に行う必要があります。
この届出を怠ったとき、又は虚偽の届出をしたときは、10万円以下の過料に処せられます。

 

 

ただし、国土利用計画法第23条第1項の届出をしたときは、森林法第10条の7の2による届出は不要です。

 

 

 

国土利用計画法(第23条第1項)による届出

国土利用計画法で定める規制区域、注視区域及び監視区域以外の区域内の土地を売買したときは、売買契約を締結した日から2週間以内に、当該土地が所在する市町村長を経由して都道府県知事に届け出なければなりません。
ただし、取得する土地の面積がその区域に応じて一定の面積に満たないときは届出は不要になります。
@市街化区域の場合 2,000平方メートル未満
A都市計画区域(上記@の区域を除く)の場合 5,000平方メートル未満
B都市計画区域外の区域(上記@及びA以外の区域)の場合 10,000平方メートル未満

 

無届出取引の私法上の効力
国土利用計画法第23条の届出が必要な土地売買であるにもかかわらず、事後届出を怠ったとしても売買契約が無効になることはありませんが、売買契約締結から2週間以内に届出をしない場合、罰則の適用があります。

 

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